新たな脅威
王都の広間には、王国全体の医療改善を検討する会議が開かれていた。
ユイは中央に立ち、チームとともに資料や地図を並べる。
北部・南部・東部の村々から寄せられた感染症報告。
それぞれの村で状況は異なり、単純な対応では到底追いつかない。
「ユイ殿、このままでは地方全体に感染が広がる可能性が高い」
王の顧問医師が眉をひそめる。
「しかし、伝統的な治療法を否定するわけにもいかぬ。村人の抵抗が強すぎる」
ユイは深呼吸し、目を閉じた後にゆっくりと開く。
「私たちの知識を伝えるだけでは足りません。
村人の文化や信仰も理解しながら、彼らが自ら行動できる体制を作る必要があります」
リオンが横でうなずく。
「……つまり、村の教育と看護の両方を同時にやれってことか」
「その通り。私たちは“医療チーム”であり、教師でもある」
ユイの声には覚悟が込められていた。
⸻
その夜、王都の外れにある北部の村へ向けて、ユイチームは再び出発した。
馬車に積まれた道具は前回より増え、簡易の診療所を作るための資材も積んである。
村に着くと、すでに被害は広がっていた。
人々は恐怖で固まり、死者を囲む悲しみの空気が村全体を覆う。
子どもが泣き叫び、老人は無力に座り込む。
ユイは歩みを止めず、チームを指揮する。
「水を煮沸! 布を煮沸! 隔離小屋を作る! 私の指示に従って!」
リオンが村人を助け、薬師が草の煮出しで簡易薬を作り、僧侶が祈りつつ手当を補助する。
ユイの指示は迅速で的確。彼女の落ち着きに、村人たちは少しずつ従い始める。
⸻
だが、今回の試練は以前よりも手強かった。
村の端で、未知の症状を持つ少女が倒れた。
咳に血が混じり、高熱が続き、意識も朦朧としている。
「ユイ姉ちゃん……助けて……」
少女の小さな声に、ユイの心は締め付けられた。
しかし、チームが怯えて動けない中、ユイは落ち着いて行動する。
「リオン、熱を下げる布を! 薬師、煮沸した水を! 僧侶、手伝って!」
ユイの指示でチームが動き、村人も少しずつ協力し始めた。
彼女の冷静さと情熱が、混乱を収束に導く。
⸻
数時間後、少女の呼吸が落ち着き、意識も戻る。
村人たちは目を見開き、次第に笑顔を取り戻した。
その光景を見て、ユイの胸には深い達成感が湧き上がる。
しかし、遠くの森の中には、新たな脅威が待ち受けていた。
——未知の感染源、伝染力の強い病気、そして人間の恐怖心による混乱。
ユイは夜空を見上げ、星の光に誓う。
「私は、この世界の医療を変える。
どんな困難が来ても、どんな命も、絶対に諦めない!」
リオンがそっと肩に手を置く。
「……ユイ、俺も一緒にいる。君の力になりたい」
ユイは微笑み、握り返した手に力を込める。
王都から地方、村から村へと、ユイの異世界医療改革はさらに広がっていく。
そして、その先には——想像を超える試練と、人々の未来を変える奇跡が待っているのだった。