王都・地方の連携
王都に戻ったユイとチームは、報告を終えるや否や次の作戦に取りかかった。
目の前には、前回以上の課題が山積みだ。
——村ごとに異なる疫病の進行。
——薬草や道具の不足。
——伝統的な治療に固執する僧侶や薬師たちの抵抗。
ユイは深呼吸し、チームを見回した。
「みんな……これからは王都と地方の村をつなぐ医療ネットワークを作るわ」
リオンは目を輝かせた。
「俺たちが、現場で教えて広めるってことか?」
「その通り。感染症を防ぐためには、知識と行動が不可欠なの」
最初の派遣先は、疫病の被害が報告された北部の村だった。
馬車に薬草や煮沸器具、清潔布を積み込み、チームは出発。
現地に到着すると、村人たちは恐怖で固まっていた。
「またあの病が……」
何度も繰り返される死への恐怖。
ユイは笑顔を絶やさず、ゆっくりと村人の前に立った。
「大丈夫。私たちが来ました。皆さんの命を守る方法を教えます」
最初は半信半疑だった村人たちも、前回の成功例を映像や言葉で示されると、次第に協力的になった。
ユイは小さな子どもを抱き上げ、母親に説明する。
「手を洗うだけで、病気の広がりを減らせるの。水を沸かして、布を清潔にして、患者とは距離を置いてください」
リオンは村人に布の煮沸方法を教え、薬師は草を使った簡易治療を指導。
僧侶も祈るだけでなく、患者の側で観察を行うようになった。
村人たちの手が動き、家々が整理され、患者の回復が始まる。
その光景を見て、ユイは胸の奥に小さな達成感を感じた。
だが、油断はできなかった。
ある夜、村の端から異常な咳と高熱の声が響く。
未知の症状を持つ少年が倒れていたのだ。
ユイはすぐに駆け寄る。
「落ち着いて! 呼吸を整えて、体を清潔に保つ! 私がついてる!」
チームは前回の経験を活かし、迅速に対応。
リオンが呼吸補助、薬師が草を煮出し、僧侶が患者の側に付き添う。
ユイの指示は的確で、村人たちも少しずつ手伝うようになった。
数時間後、少年の呼吸が落ち着き、顔色が戻る。
村人たちは驚きと感動の入り混じった目でユイを見つめた。
その瞬間、ユイの中で確信が生まれる。
「——知識は力。誰かを守るために、伝えれば希望になる」
夜空を見上げ、ユイは小さく誓う。
「これからも、どんな場所でも、どんな命でも……守り抜く」
王都と地方を結ぶ医療のネットワークは、この夜、静かに、しかし確実に動き始めたのだった。