疾病再来と試練
王都から数日かけて、ユイとチームは前回の村とは別の地方に到着した。
ここでも疫病の兆候が報告され、被害はすでに深刻だった。
村に足を踏み入れた瞬間、空気が重く、腐臭と湿った血の匂いが鼻をついた。
倒れたままの人々、泣き叫ぶ家族、避難できずに混乱する人々。
「……前回より深刻ね」
ユイは唇を噛み、胸の中で決意を新たにする。
(ここで怯えていたら、誰も救えない。私は看護師なんだ——!)
チームを率いて、彼女はすぐに作戦を立てた。
①感染者の隔離
村の納屋を消毒し、清潔な布で寝床を整える。
病状に応じて部屋を分け、他の村人との接触を避ける。
②清潔と水の確保
沸騰した水を運び、手洗いの手順を村人たちに教える。
「水があれば、命は守れる!」
③看護と観察
ユイ自身が倒れている患者の傍に付き、呼吸や脈、皮膚の状態を確認。
小さな変化も見逃さない。
最初は村人たちも半信半疑で、指示に従う者は少なかった。
「あんた一人で何ができるんだ?」
「清潔だって? そんなの効くのか?」
しかし、ユイは恐れず一人ひとりに向き合い、実際に治療してみせた。
傷を清潔にし、布で拭き、必要な水分を与える。
数時間のうちに、明らかに回復する人々を見て、村人の表情が変わっていった。
だが、ここで最初の試練が訪れる。
夜になり、激しい咳と高熱に苦しむ少年が倒れたのだ。
前回の村とは比べ物にならないスピードで症状が進行していた。
「ユイ姉ちゃん……痛いよ……」
少年の小さな声に、ユイの心が締め付けられる。
チームの薬師は焦り、僧侶は祈るだけ。
ユイは震える手で少年の額に触れ、呼吸を観察し、必要な処置を考えた。
(どうする……薬もない……! でも、看護で守れることはある……!)
彼女は深呼吸し、冷静に指示を出す。
「布を煮沸して! 体を拭いて! 水を少しずつ与えるの! 熱を下げるのは呼吸を楽にするためよ!」
リオンが傍らで手伝いながら、ユイの行動を見て学ぶ。
「……すげえ……ただの布と水なのに、回復してる……!」
数時間後、少年の呼吸は落ち着き、顔色が少し戻った。
村人たちは驚き、恐怖に震えていた手を緩めた。
ユイの目には、少しずつ生まれる“希望の光”が映った。
しかし、ユイの胸の奥には次の不安があった。
——この病はまだ広がる。
——もっと大きな被害が待っているかもしれない。
夜空を見上げ、ユイは小さく誓った。
「私は、どんな困難があっても逃げない。
私の知識で、誰かの命を守る——必ず」
そして、チームのメンバーも次第に心を開き始めた。
薬師は新しい薬草の使い方を学び、僧侶も祈るだけでなく、清潔と看護を手伝うようになった。
リオンはユイの手順を覚え、村人に指導する補助役として活躍。
ユイの声が響く。
「一人じゃ何もできないけど、みんなで力を合わせれば、命は守れる!」
夜明け前の闇に、小さな灯が村を照らし始めた。
——ユイの異世界医療改革は、ここから本格的に動き始めたのだ。