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小さな奇跡
リオンが目を覚ました朝。
村の空気は張り詰めていた。
「まだ助かるかもしれない……」
「いや、熱が下がっていないなら危険だ」
村人たちの視線は、不安と恐怖で揺れていた。
だが、ユイは一歩も引かずに言った。
「奇跡なんかじゃない。私は“治す”。そのためにここにいるんです」
彼女は自分の知識と経験をすべて総動員し、リオンの治療に集中した。
井戸水を煮沸し、清潔な布を用意し、食欲が戻るまで水分とスープを与える。
異世界では誰も知らない「基本の看護」。
それは派手ではないが、確実にリオンの命を繋いでいった。
そして数日後――。
リオンは自分の足で立ち上がった。
「……ユイ。ありがとう。君のおかげで、俺は生きている」
その姿を見た村人たちは息をのんだ。
一部の者が目を潤ませ、そっと呟いた。
「本当に……助かるんだな」
「看護って……こんな力があるのか」
恐怖で閉ざされていた心が、少しずつほどけていく。
ユイはその光景を見て、胸に熱いものが込み上げた。
(これが、私のやりたかったこと……!)