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黒い影の正体

 「黒い疫病……?」

 国王の言葉に、ユイは耳を疑った。


 玉座の間に漂う空気が一層重くなる。

 セレスティア王女が一歩前に進み、澄んだ声で説明を続けた。


「半年ほど前から、地方の村々で原因不明の病が流行り始めました。

 発熱、咳、吐血……そして皮膚に黒い斑点。治療の甲斐なく、半数以上が命を落としています」


 ユイは息を呑んだ。

 ——それは、まるで歴史で学んだペストや結核を思わせる症状だった。


「聖職者の浄化も効かず、薬師の薬も効かない。

 我が国の医療では、打つ手がないのだ」

 国王の声は重く沈んでいた。


 ユイは拳を握りしめた。

 (放っておいたら……また多くの命が消えていく)


 だが同時に、自分の知識でどこまで通用するのか、不安が胸を締め付ける。

 この世界に抗生物質もワクチンもない。

 看護師としてできるのは「清潔・予防・観察・支援」……その基本だけ。


「……私にできることは、ほんの小さなことです」

 ユイは震える声で口を開いた。

「でも、それで救える命があるのなら——全力でやります」


 その言葉に、セレスティア王女の瞳がわずかに揺れた。

「……ありがとう。あなたが来てくれて、本当に心強い」


 国王は頷き、重々しく命じる。

「ユイ。近々、疫病の蔓延する村へ調査隊を派遣する。お前には同行してもらう」


 リオンが一歩前に出る。

「もちろん、俺も一緒に行きます」


 その即答に、ユイの胸がじんわりと熱くなる。

 不安もある。恐怖もある。

 けれど、リオンが隣にいるなら——。


 その瞬間、彼女の中で決意は固まった。

 ——看護師として、この世界の命を救う。

 たとえ危険な道であっても。


 王城の回廊を後にしたユイの背中には、もう病弱少女の影はなかった。

 小さな肩に、世界の未来が託されようとしていた。


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