異世界初の大仕事
ある日の朝、診療所の扉が激しく開かれた。
駆け込んできたのは、町の若い兵士だった。
「助けてくれ! 工事現場で事故があった! 瓦礫の下敷きになって、何人も……!」
診療所の空気が一瞬にして張り詰める。
明日香は胸を押さえた。弱い体が警鐘を鳴らす。だが――
「行きましょう、リオン!」
彼女の声には迷いがなかった。
現場に駆けつけると、大きな建物の工事現場が崩れ、多くの労働者が倒れていた。
血に染まった衣服、呻き声、泣き叫ぶ家族。
魔法医師たちも治療に奔走していたが、圧倒的に人手が足りない。
明日香は深呼吸をし、看護師としてのスイッチを入れた。
「リオン、重傷者を安全な場所へ運んで! 順番をつけるから!」
「わかった!」
瓦礫を持ち上げるリオンの力強い腕と、明日香の冷静な判断が現場を動かす。
出血の多い者には止血帯を。
呼吸が苦しい者には体位を工夫し、気道を確保。
熱で朦朧とする者には冷却と水分補給を。
人々は驚いた。魔法ではなく、知識と手で次々と命が救われていく。
魔法医師ですら、明日香の処置に目を見張った。
「どうして……そんな方法を……?」
「これは、私の世界の知識です。でも、誰にでもできます」
そう答える明日香の姿に、人々の表情が変わっていった。
やがて、太陽が沈む頃――
ほとんどの負傷者が命を繋ぎとめられていた。
明日香は汗だくで膝をつき、ふらりと倒れそうになる。
その体を、リオンが強く抱き止める。
「無茶しやがって……でも、よくやった」
耳元で聞こえる低い声に、胸が震える。
現場に集まった町の人々が、一斉に明日香へ感謝の言葉を投げかけた。
その光景に、彼女の瞳から熱い涙がこぼれる。
「……ありがとう……こんな私でも、人の役に立ててよかった……」
その夜、町では「異世界から来た病弱な少女が、多くの命を救った」という話が広まり、明日香の存在は一気に特別なものへとなっていった。