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最弱ヒロインの帝国暗躍譚  作者: ネーム
迂遠なるプロローグ
2/7

A2〈前編〉

#1

 もし私が白瀬桃奈を一分で簡単に説明するなら、恐らく次のようなものになるだろう。


 以前、私が友人と話をしていたとき、たまたま某大学の有名問題が出てきた。それは『自分がロボットでないことを証明せよ』という問いであり、当時の私は「簡単ね。私以外の全ての人物を殺害すれば良い」と答えた。


 「は?なんでそうなるわけ?」

 「簡単な話よ、ワトソン君。私以外の全ての人間と思わしき者を殺害すれば、『私は人間である』という主張に対して反証できる人間がいなくなることから、自動的に私の主張が立証されることになる」

 「…………」


 今でもあの友人の、サイコパスを見るような視線は忘れられない。そして白瀬桃奈は、この類のヒロインだった。

 Q.1目の前で人が死にかけている。どうしますか

 A.1目撃者を全員殺します。これで誰も救護義務違反を咎められることはなくなります。


 Q.2スナイパーが貴方の友人を狙っています。どうやって助けますか

 A.2先に友人を殺しておきます。少なくともスナイパーからは守れます。


 何もこれは彼女の名誉を不当に傷つける目的で言っている訳では無い。本編でマジでやりやがったのだあのふぁっきんヒロインは。

 なまじ問題解決能力が高い彼女は、敵に回すと厄介だが、味方にすると尚最悪という、関わるだけで不幸になる疫病神体質を持っている。私自身、彼女の事は殺しても殺し足りない程に嫌いであるため、仮になろう小説のような災難がこの身に降りかかろうとも白瀬桃奈に転生するような事態だけは御免被ると思っていた。

 思っていたのに。私が何をしたというのでしょうか、神様……


#2

 状況を説明しよう。と言ってもそれは半ばレトロスペクティブな話であり、あの時の出来事に関する話であり、私が何をしたのかに関する話だったりする。


 メインヒロインの一人である白瀬桃奈。彼女に転生した時点における私には手持ちと呼べるような物は無かったが、帝国解体を最終目標に据えた場合、取分け①人材②資金源③キーパーソンの不足が顕著だった。

 殊に、後の計画を考慮した場合、資金源確保の問題だけは喫緊の課題として早急に解決する必要があった。


 仮にあのゲームが純粋ファンタジーな世界観であったなら、問題解決は幾らか容易だったろう。モンスターハントなり自作アイテムの販売なり、適宜の手段で資金を得ることができる。しかし悲しいかな、夢と希望と倫理観をそぎ落としたこの世界にはモンスターが存在しない(※注1)。

 加えて厄介なのが、今回目標が資金確保ではなく資金源確保、要するに継続的資金調達方法の確立という点にある(※注2)。一回限りの資金調達であれば出所の怪しい商品を売ることも吝かではないが、継続的に反復するとなると話が変わる。いつかは確実に失敗する古典的方法を継続的手段として採用することはできなかった。

(※注1)誤解なきように言っておくが、夢と希望と倫理観が無いだけでハント要素は存在する。一般的には赤狩りと呼ばれるマンハント要素が。

(※注2)極めて長期な大規模プロジェクトを立案する場合、兎にも角にも予算を何処から継続的に引っ張ってくるか、スポンサーに誰がなってくれそうかを最初に検討する必要がある。公共事業として帝国政府が出資してくれれば有り難いのだが……駄目みたいですね。


 ではもう一つの古典的方法、会社設立の方法はどうかだが。この発想は極めて秀逸と言える。

 無論、本当に会社を設立する訳では無い。私自身に商才やアイディアが無い以上、会社経営は不可能。仮に有ったとしても、元手金や黒字化するまでの時間的問題が本編開始する次年度4月1日までに解決することが決して無い(※注1)以上、選択肢から抹消される。

 そうではなく、私が注目して欲しいのは会社を設立することにより得られる恩恵の方、出資者の投資ハードルの低下という側面にある。

(※注1)もっと言えば、そもそも設立申請が絶対に通らない。原始定款の中身が『目的①新政権樹立による現帝国政府の解体②前号に附帯する一切の業務』と色々終わっている。


 考えてみても欲しい。年度毎にBSシートを公開する企業とワンマンの個人経営者、果たしてどちらに融資したいかを。両者の間には歴然とした社会的信用という差が存在する。これこそ資金源確保を目標とする現在の私に欠けているものであり、会社が有する固有財産といえる。


 纏めると、次のようになる。

①資金源確保の問題は継続的資金調達方法の確立と置換えて理解する必要がある。

②継続的資金調達方法として継続性及び確実性を欠く換価方式は不適格であり、出資方式を採る必要がある。

③この場合、当該問題は社会的信用力等を確保することで解決されることになる。

④会社設立は社会的信用力確保の代表的手段である。


 ここまで私の言わんとする所は分かって頂けたと思う。即ち【A白瀬桃奈には社会的信用力が必要】であり、【B会社設立はその代表的手段】ということになる。


 よって私は社会的信用力を得る為に首都警察を殺害した。


@X年7月3日『◯◯ラジオ』

 『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。本日夕方頃、帝都リーゼンバウ河区にあるアパートの住人から「隣室から不審な物音がする」との通報が首都警察に寄せられました。

 警察が立ち入ったところ、同室に住む首都警察刑事課所属の若狭雄一警部と思わしき人物が遺体で発見されました。警察当局の発表によりますと、遺体の損壊状況が激しく身元の確定には時間を要するが、概ね若狭刑事本人で間違い無いであろうとのことです。当局は、近辺で不審な人物がいなかったか、いたら最寄りの警察署まで情報提供するよう呼びかけています。

 また、通報した住民によりますと、犯行現場となった部屋には血文字で「フラスコ伯爵より愛を込めて」と書かれていたとのことです』


@X年7月11日『✕✕新聞朝刊』

 昨夜未明、帝都リーゼンバウ河三丁目にあるアパートの一室で男性の遺体が発見された。死亡したのは首都警察刑事課に勤務する富岡益次郎さん(30)であり、当局は不審者情報の提供を呼びかけている。

 富岡さんは死亡する数日前から「何者かに狙われている。殺されるかもしれない」と上司に相談していたことが本紙の取材により明らかとなった。今回の事件を受けて、当局は「長時間労働の末に富岡巡査長が幻覚を見ている可能性を払拭しきれず、対応が遅れてしまったことを深くお詫びする。今後は同様の事件が発生しないよう、人員整備や労働形態の改善などを署を挙げて、前向きに検討していきたい」と発表した。

 また、当局は警察官を狙った一連の殺人事件を「フラスコ事件」と、同一犯による犯行と位置づけ捜査する方針を固める模様である。


@X年7月16日『夕刊ゴシップ』

 フラスコ伯爵を追え!

 読者の方々におかれては「フラスコ伯爵」なる人物をご存知だろうか。何を隠そう、最近巷を騒がせる「警察官連続殺人事件」の真犯人と目されている人物だ。凄惨な殺人現場と被害者の血で書かれた「フラスコ伯爵より愛を込めて」の血文字は、恐れ多くも皇帝陛下が直接統治する帝都に多大なる損害と混乱を巻き起こした。

 しかしその一方で、フラスコ伯爵なる人物の行動には謎が多い。そこで本誌はこれ迄に発生した事件を専門家の意見と合わせながら読み解いていきたい。

 まず改めて、今回一連の事件の経過は振り返りたい。事件発生の時系列は次の通りだ。


X年7月1日 帝都近郊にあるホテルの一室にて男性警察官の遺体が発見される。

同年7月3日 帝都近郊にあるアパートの一室にて女性警官の遺体が発見される。

同年7月4日 帝都近郊にある住宅の一室にて男性警官の遺体が発見される。

同年7月10日 帝都近郊にあるホテルの一室にて男性警官の遺体が発見される。

同年7月12日 帝都近郊にあるアパートの一室にて男性警官の遺体が発見される。


 言うまでもなく、この一連の死亡事件は全て他殺であり、これは警察当局の公式発表である。

 他方で、当局が「フラスコ伯爵」の存在を公的に認めたのはX年7月10日の事件からだが、それ以前の段階から、当局は「フラスコ伯爵事件」として調査を進めていたようである。


(中略)


 今回の事件に対し、犯罪者心理学に詳しい武松教授は次のように語っている。

 「今回一連の事件、仮にフラスコ事件とでも言いますが、フラスコ事件には不可解な点が幾つも存在します。取分け、警官殺害という重大犯罪が短期間かつ局所的に行われたという点は、到底プロの手口とは言えません。恐らくフラスコ伯爵はプロ思考を有しない者であり、逃げる術を知らない可能性が高い。遠からず逮捕されることでしょう」


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