週末のお出かけ②
「今日はデザインの発表はしなくていいよ」
「で、でも」
「ユリのデザインの試作が溜まって仕方ないのよ。だから一旦新作はお休みだ」
「ウィナー男爵令嬢もよかったら試作を見ていくかい」
「いいんですか」
「あぁ」
しょんぼりとしている私に叔母がポンポンと頭を撫でてくれる。
「アイデアがたくさん出てくるのも考え物だね」
叔父にまでニコニコとくぎを刺されると目の前にいくつかの試作品が並べられる。
今回の試作品は、熱くなるこれからの季節に向けてのハットと日傘。
香水としても使える冷却ミスト。
「施策を熱い南部の地域の商会員に試しに使ってみてもらった中で出た改良点だ」
一枚の紙を渡されてそれを読んでいると叔母がミリアム様に話しかける。
「ウィナー領も厚い地域ですよね。これの使い心地をお聞きしてもいいですか」
冷却ミストをミリアム様の周りに噴射する。
お願いしていた柑橘系の香りの物だ。
「えっ…涼しくなりました」
「そうなんだよ。私たちもユリに聞いたときはびっくりしたんですよ」
「水が周りの熱を奪って空気に変わるので少し涼しく感じるんです」
私が補足で仕組みを説明する。
この世界に水が蒸発するという概念はまだないので、変な言い方になったけど仕方ない。
「香りの持続性が短いという指摘ですが、香りはあくまで感覚的に涼しく感じていただくためなので今くらいでいいかと。3時間ももてば十分でしょう」
「そうだな。あとは、持ち運びの点だな」
「前にお願いしていた香水を小分けにする瓶はまだ試作段階でしたっけ」
「いや、あれは最終調整を終えて完成品が届いている」
「そちらもセットで販売してはどうでしょう」
「それなら外出先でも使えていいな」
叔父と2人で盛り上がっていると、ミリアム様が不思議そうに私を見てくる。
「ユリ様は、すごいアイデアをたくさんお持ちなんですね」
「そんなことないですよ。私は私が欲しいものを作ってもらってるだけです」
これは、本当。
前世であって便利だったものをこの世界でどうやったら再現できるか考えて、叔父達に伝えているだけに過ぎない。
「ミリアム様がよろしければ、こちらのひんやりミストご実家に送りませんか」
「えっ。そんな…いいんですか」
「完成品ができるまでお待ちいただければですが」
「もちろんです」
ノエル商会の新作を遠方の領地でいち早く試せるんだ。
変に利用されないようにだけ気を付けていこう。
そんな私を見ながら叔父と叔母がニコニコしていることに私は全く気が付かなかった。
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