ヒーロー登場
私とアイリーン様の間に身体を滑り込ませてきたのは…。
「皇国の未来の太陽に拝謁いたします」
私がそう言って頭を下げるとか怪訝そうな声が頭上から聞こえてくる。
「そういうのは、必要ない。学園内では身分の差はないんだからな」
「かしこまりました」
顔を上げると納得いかないと書いてあるものの私の状況も汲み取ってくださったのか仰々しく頷く皇太子殿下がいらっしゃった。
「アンディ!なんで邪魔しますの」
アンドリュー殿下の愛称を呼ぶこちらのアイリーン様は未来の皇后。
お2人は確か6歳のころから婚約関係だったと記憶している。
このアンドリュー殿下は、小説ではヒーロー的な立ち位置だ。
別に、主人公と恋仲になったりすることはない。
ただ、学園や国内で起きる問題を先頭に立って解決するのでヒーロー的な立ち位置なだけである。
「リーン、サントス伯爵令嬢が困っているじゃないか」
「まぁ、私としたことが申し訳ございません」
しゅんと落ち込まれた表情のアイリーン様。
ストロベリーブロンドのストレートロングの髪に淡いルビー色の瞳の絶世の美女は、俯いているだけで絵になるのだと息を吞んでしまう。
「お気になさらないで下さい」
「では、この後お茶を一緒にいたしましょう」
「その…まだ荷物の整理が終わっておらず日を改めていただくことはできませんでしょうか」
「それなら私もお手伝いいたしますわ」
なんでこんなに私と話したがるのかと思ったけど、ファンって言ってらしたわ。
「リーン、新しい友人ができそうで嬉しいのはわかるが少し落ち着け」
「はい…」
「よろしければ、今叔母に頼んで試作していただいてる新しいデザインのハットと手袋がありますのでそちらを見ていただけませんか」
「い、いいんですの」
「アイリーン様は、令嬢たちのファッションリーダーですもの。ぜひ、ご意見をいただきたいです」
そう、アイリーン様は、王都の令嬢のファッションリーダー的な存在。
だから、ここでアイリーン様とお近づきになるのは、将来ブティックを持ちたい私としても悪い話ではないのだ。
まぁ、深く関わることはないと思うけど。
だって、私はこの世界の主要なことに関係ないモブですもの。
ちょっと、感激してアンドリュー殿下の肩を揺さぶっているアイリーン様に年相応の女の子を感じて打算を持って提案したことを申し訳なくは思っているけど…。
貴族とは、そういうものですものね。
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