魂に刻まれたもの
私、ユリ・サントスは伯爵家の長女として生を受けた。
親もびっくりなくらい裁縫が得意で貴族の子女として刺繍を習う前から刺繍も小物づくりも難なくこなしていた。
そして、10歳になる前には自宅で作るドレスは自作。
さらに、妹の洋服や兄のハンカチーフなどを作っていた。
その翌年には、母がドレスにつけるコサージュも作っている。
昨年からは叔母夫妻がやっているミラージュ商会で私が作った小物やデザインをしたドレスを販売もしている。
親族からは神童だとかなんとか言われたけど、それは腑に落ちていなかった。
そんな私の疑問が解決されたのは、15歳になって学園に入学する前日。
学園の門をくぐって校舎を見上げて頭痛で倒れた時だった。
「まさか...、私が転生者だなんて」
この世界には、転生者といわれる人がいるらしい。
ただ、その人たちは、特別な力があるわけではないけど、国の発展に貢献した人が多いらしい。
伝説みたいに言われている存在が自分だなんて信じられなかった。
得意なことは、裁縫。
前世の職業は、ファッションデザイナー兼社長。
といっても、ECサイトで細々と販売していたものが少しずつ人気が出てようやくブランドとして立ち上げたばかりだった。
子どものころから裁縫が得意だったこと、何も習っていないのに洋服のデザインが描けたこと。
この世界にない着かたの洋服のデザインを描いていたこと。
コルセットが嫌すぎて筋トレを始めたことも魂に刻まれた記憶がさせていたことなんだろう。
「うーん、明日の入学式に合わせて何を付けるか選ぼう」
前世の記憶を思い出すのに、数時間の頭痛で済んでよかったと思いながら持ってきた小物を眺める。
ここは、前世で読んだことのある未完結の小説の世界。
だけど、私の名前なんて一ミリも出てこなかったから、前世と同じように自分のブランドを立ち上げることを夢にした。
自宅から持ってきたヘアアクセサリーや許される程度の制服用アクセサリーを見ながらニマニマしてしまう。
母方の遠縁からの隔世遺伝らしい艶のある黒髪に黒曜石のような黒い瞳に合わせて選ぶ。
ネイビーのブレザーにチェックのスカートの制服に合うような濃い赤のリボンとヘアアクセサリー。
そして、領民たちが私に渡してくれた我が家の紋章が刺繍されたハンカチを用意してお風呂を済ませるともう一度眠りについた。
私はこの時まで転生者として何も貢献はできないだろうと…。
小説の主要人物たちと関わることはないだろうと本当に信じていた。
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