ウーサー=キングス営業をする
「……ウサギさんを雇ってくれませんか?」
「は? えっと、おっしゃる意味が良く?」
冒険者の受付で、綺麗な受付のお姉さんは、黒ぶちメガネの奥の瞳を、困惑色に染めていた。
その視線は、ボクの抱き上げているウサギさんに向けられていた。
「……この子を雇ってほしいんです。荷物持ちとして」
「えぇ……。いやそれはダメですね。ウサギは無理です」
「……普通のウサギじゃないんです。ギフトで生み出したウサギです」
「ギフトですか?」
「はい……。うちのウサギさんは、言うことをよく聞いてくれます。荷物は50キロほど持ち上げられます」
「それは……本当にウサギなんですか?」
「ウサギさんです」
実験結果からセールスポイントを説明したボクだったが……残念ながら受付のお姉さんの表情が明るくなることはなかった。
「……ごめんね? ちょっと無理かな?」
「……」
ごめんなさいされて、追い出されてしまった。
なんでだ。こんなにもかわいいのに。
いやしかし、勇み足が過ぎたのも事実である。せめてもう少し暗黒騎士のザインさんが連れ歩いて見せてくれるのが浸透してからでも遅くはなかった。
あわよくば仲介してもらいたかったし、何なら冒険者のギルドに置いてもらえないかとも思ったが、そう都合よくはいかないようだった。
お試しでも置いてもらえれば印象は変わると思うのだけれど、いきなりは難しいかもしれない。
こんなにかわいいのに。
いったん冒険者ギルドはあきらめるかな?と考え始めたが、ギルドの中に入って来た重そうな荷物を持っている一団を発見して、ボクは目を止めた。
彼らは冒険者の様で、一人は大きな盾を持った重騎士。一人は斧を持った戦士。一人は杖を持った魔法使いのエルフというメンバーだ。
如何にも冒険者風で、旅慣れているのが分かる彼らは中々目を引く印象だった。
ふむ。やっぱり冒険者の荷物は重そうだ。
せっかくだからと、ボクは彼らにも声をかけてみることにした。
「……ウサギいりませんか?」
ちょっとストレート過ぎだろうか?
一応は気づいてくれたが、重騎士の男性は見るからに困惑していた。
「ん? なんだボウズ? 肉なら間に合って……」
「ふん!」
そう言いかけた重騎士の彼は、横に飛んだ。
どうやらエルフの女性が杖で一撃したらしい。
「ウサギを見て肉の話をするんじゃない。まだ生きてる」
「ぐおお……いやすまん。しかしウサギは生きてても俺が死ぬから、背後からの武器を使うのは止めてくれ。ええっと……何だったかな? ボウズ、そのウサギをくれるって?」
杖の一撃のおかげか、話を聞いてくれるみたいだ。
これは大チャンス。僕は猛烈にウサギさんをプッシュした。
「……はい。このウサギさんを冒険に連れて行ってもらえませんか? 荷物持てます」
「に、荷物が持てるのか?」
「……はい」
「ふむ……ホントか? 結構重いぞこれ?」
そう言って、子供の話に乗ってくれるこの重騎士さんはとてもいい人だ。
ボクはコクリと頷いてウサギさんに指示を出す。
ウサギさんは床に着地すると差し出された荷物を受け取り、やっぱり荷物を軽々と持ち上げて見せた。
「「「おおー」」」
「……かわいいな」
「ん? マリー、なんか言ったか?」
「……別に」
どうやら好感触の様だ。
ならばとボクは更にアピールした。
「……この子達を人数分貸し出します。お役に立つようなら雇ってもらえると嬉しいです」
ぽんぽこと人数分のウサギを呼び出す。
おおーっと、驚きの歓声はいただいたが、リーダーらしき重騎士の男性は難色を示した。
「雇う……雇うかぁ。いや、そいつはちと厳しいな。そんなに余裕は……」
「雇わないのか?」
しかし付け加えられた、感情が感じられない一言に、重騎士さんは驚き顔で魔法使いのエルフさんを見ていた。
「え? ああいや、今懐が……」
「雇わないのか?」
「……」
なんだろう? 気のせいかもしれないけれど魔法使いさんの圧が強い。
気を抜くと押し潰されそうだ。
あと一押しという感じなので、ボクとしてはお勉強するのもやぶさかではなかった。
「……最初はタダでいいです。ギフトで出したウサギなので餌も必要ありません」
「あ、そうなのか?……ウサギ出すギフトってなんだ?」
「餌を上げてはダメなのか?」
餌のリクエストは今まで黙っていた斧を持った戦士さんの言葉だ。
ダメかダメじゃないかと言われれば、どんなものでもおいしく頂ける。
「……食べさせてもいいです」
「ならば良し」
「……はぁ。エドガーもマリーも賛成なのな。わかった、いいよ。荷物持ってもらえるなら助かるしな」
「……ありがとうございます。まずはお試しでお願います」
ご利用ありがとうございます。
やはりウサギの可愛さは今回も勝利を収めたようだ。
とりあえず、いろんな場所に行く冒険者の人にウサギさんが同行出来ればすごく宣伝になると思う。
さて、後は実際に皆様方のお役に立てるかどうかなのだが、ボクのウサギさんならきっとお役に立てるはずだ。こんなにかわいいのだし。
ウーサー=キングス勝利を確信した一日だった。