ウーサー=キングスとウサギの意外な一面
「ふむ……ウサギを雇ってほしいと?」
「……はい。どうですか」
喫茶店にて、ボクとフルプレートの暗黒騎士は同じテーブルで向かい合っていた。
ウサギ好きの彼なら目があるかもしれない。
そんな下心もあって相談した暗黒騎士のザインさんは生クリームたっぷりのウサギケーキを食べながら、唸った。
「そうだな……。すごく歓迎したいが私は冒険者だ。ウサギが戦闘に巻き込まれて死んでしまうのは忍びない。流石に戦ったりはできないのだろう? 冒険者は難しいかもしれないな」
「……そうですか」
うっすらと冒険者は厳しいかもなと思っていただけに、ボクは肩を落とした。
そしてザインさんは怪訝そうにボクに訊ねた。
「しかし、なぜウサギを?」
「……喫茶店を始めたらギフトが成長しました。なにか経験を積んで、ギフトが成長するとウサギさんをもっとたくさん呼び出せるようになりそうです」
「なんと! それは重要だな! ……しかし、そうか。ウサギに経験を積ませること自体が難しいのだな。うーむ、荷物持ちでもできたら、どんな場所でも需要がありそうだが……」
「……荷物持ちですか?」
「ああ。冒険者もなるべくいざという時のために手を開けておきたい者は多いだろう。あとはウサギがどれくらいの荷物を持てるかだが」
なるほどとボクは、納得した。
確かに荷物持ちのようなサポート的ポジションなら、様々な職種で需要があるだろう。
しかし非力すぎてはいくらなんでも邪魔になるかもしれない。
「……どれくらい荷物が持てるか、試してみます」
「ふむ……そうか。ならば私も協力しよう。少し待っていてくれないか?」
「?」
ザインさんと待ち合わせしたのはボクの家の庭だった。
そして場所を改めて、ザインさんが準備してきてくれたのは、複数のカバンだった。
「これがいわゆるポーターという冒険者に雇われる荷物持ちが使うカバンだ。小さなものも用意した」
「……おお」
冒険者ってそうなんだと僕は目を輝かせた。
「5キロ、10キロの物を用意したから試してみよう」
「……はい」
しかし5キロとはいえ、持つのはウサギさんである。
一番大きなカバンに至っては、ボクでも持ち上げることも大変かもしれない。
潰れてしまったらどうしようと思いながら、ボクはウサギさんに指示を出した。
「……ウサギさん。あれを持ち上げて」
ウサギさんは動く。
そして、5キロのカバンに手をかけるとひょいっと持ち上げてしまった。
「……なんと」
「……」
微妙にドヤ顔でかわいい……ではなくすごい。
「では10キロ」
恐る恐る、ザインさんがウサギさんに10キロの荷物を差し出す。
すると、すまし顔のウサギさんは自分から手を伸ばしてやっぱりひょいっと簡単に持ち上げてしまった。やっぱりかわいい。
「いやしかし、普通にすごい力なのではないだろうか?」
「……もうちょっと試したいです」
せっかくなのでもう少し試してみることにしたのだが―――。
「し、信じられない」
「50キロ……行けた?」
デデーンと音がしたかと思ったほど、威風堂々としたウサギさんである。
まさか、可愛い上に力持ちとは、最強なのでは?
これなら荷物持ちくらいなら、余裕でこなせそうだ。
最大値は……今はいいかな。沢山だ。
わなわなと震えているザインさんの兜の下の目はらんらんと輝いている気がする。
暗黒騎士のオーラも、怖いくらいに粗ぶっていた。
「う、うむ……これならポーターとして十分雇える……どうだろう? まずは私が雇ってみるというのは?」
「……いいですよ?」
実はそう来ると思っていた。ならば相談のお礼にいつか試してみたいと考えていた、ギフトの新たな力を使ってみよう。
ボクは、カードを取り出す。
「それはスタンプカードじゃないか? どうするのだね?」
「……こうします」
一枚にスタンプを10個押せるそれに、ボクはポンポコスタンプを押していった。
そして10枚のスタンプカードにスタンプを押し切った時、変化が起こる。
スタンプカードが輝き、空中で一つになると。紙から金属に素材を変化させた。
ふわりと落ちて来たそれをボクは受けとめて、ザインさんに差し出した。
「……これを。ウサギカードです」
「お、おう……ただのかわいいスタンプがたまっていくカードだと思っていたが、何なのだね?」
「……このカード一枚に付き。ウサギさんを一匹呼び出せます」
「!」
それは仮召喚とも言うべきもので、このカードはウサギさんのマスター権を譲渡するものだ。
ウサギさんがどこにいても、このカードの持ち主がすぐに召喚できる優れものである。
カードを宝物みたいに眺めるザインさんの反応を見れば、お礼になっているのは間違いなさそうだった。
「……」
今日もまた良いことが知れた。
人間に負けないくらい荷物をたくさん持てるのは、ウサギたちの大きな特技になるだろう。
行動を起こすべき時が来たようだ。
ウーサー=キングス、確かな自信をつけた一日だった。