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ウーサー=キングスの話の早い家族たち

 ウサギさんがテーブルを拭いている。


 テ-ブルを拭いたウサギさんが給仕をしている。


 給仕をしたウサギさんが食器を洗っている。


「……おおっ。どんどんスムーズになっていく。それになにより実に可愛い」


 ではなく。教えれば案外何でもできたすごいウサギさんである。


 一定の練度になったことを見計らって、ボクはパパンの部屋を尋ねて披露することにした。


 目を丸くしているパパンの反応は上々だった。


「おお、ウーサー君はすごいですねん」


「……パパン。すごいのはウサギさんだよ。それで……実はお願いしたいことがあるんだ」


「なんなのねん?」


「……ボクのウサギさん達をどこかのお店の手伝いで使ってほしい」


「お店なのねん?」


「……そう、飲食店。いや……喫茶店とか」


 まずはお屋敷での経験を生かせそうな業種から初めて見る算段である。


 ただ、ボクの少ない言葉を聞いてパパンは大いに察しすぎてしまったようだった。


「なるほどねん! それはいいアイディアなのねん! さすがはウーサーだねん!」


 そして突拍子もない話だと言うのに、パパンは即乗り気だった。


「こういうのは早い方がいいねん! せっかくだから新しい飲食店を始めるのねん! ウーサーはママンの服飾店でウサギたちの衣装を発注するのねん!」


 ……流石パパン本当に話が早い。


 では早速ボクも見習って、ママンに話に行くことにした。





「アラアラ。いいわねいいわね! じゃあさっそく手配しましょう。デザインはどうしようかしら?」


「……それなら。考えたよ」


 ママンもそれはもう話が早かった。


 ボクは、前もって準備していたイラストとともに、デザイン案を提出する。


 それを見たママンはぱっと明るい表情を浮かべていた。


「まぁまぁ! これは最高ね!」


「……ボクもそう思う」


 喫茶店をやるなら給仕にふさわしい衣装がある。


 ウサギさんならばなおさらである。




 以前に飲食店をやっていた店舗を買い取り、計画はあっという間に始まった。


 店長と店員は店舗運営と料理を提供できる人物。


 店長のラブとコックのピースの採用基準は、もちろんウサギさんが好きである事。


 そして要となる接客のスタッフはボクのウサギさん達である。


 すでに使用人達から、ある程度のスキルは習得済み。


 後は店がオープンしてから改めて学習してさらにスキルを高めていく算段である。


 若干アンティークな雰囲気を残しつつ、明るくかわいい店内に拘った空間には、僕のウサギさんが走り回っている。


 ウサギさん達はチェック柄の燕尾服風給仕服で、ピョンピョコ忙しそうに開店準備を進めていた。


「……これは」


 楽園かな?とボクは心の中で呟いた。


 そして開いたメニューにはウサギさんテーマのメニューがずらりと並んでいた。


 そう―――ここは軽食と今、王都ではやりだと言う紅茶を嗜む店。


 商人であるパパンのコネを最大限に生かした、素敵なティータイムを過ごせるお店である。


 アルコールはなしだが、昼に食べるものはお値段以上にボリュームのあるメニューもある。


 そして何よりの目玉はウサギたちとの癒しの時間が過ごせることにあった。


 メインターゲットは女性客だが、オープン初日。少しだけ目につく客がいて、ボクは目で追っていた。


「おお……ウサギが働いてるのか」


 声を震わせているのは、フルプレートの鎧を着込むとても背の高い暗黒騎士である。


 少々場違いにも見える彼だがボクは見逃さない。


 彼は相当にウサギが好きなのか、言葉の端々からウサギへの愛が溢れていた。


 しかしみんながきやすくウサギさんを撫でたりしている中、一切手を触れようとしないのはどうにも気にかかった。


「……どうしました?」


 思い切って話しかけてみたボクに、暗黒騎士は戸惑っている様子だった。


「んん? 君は?」


「……この店のものです。なにか失礼がありましたか?」


 そう尋ねると、いやいやと暗黒騎士は顔を振った。


「そうではないんだ。実は……ウサギは好きなのだが、昔から動物には嫌われる体質でね。怖がらせてしまうのではと思って」


「……大丈夫ですよ。頭をなでてあげてください」


「いや、それは……」


「……大丈夫です。この店のウサギは特別なので」


「特別なのかね?」


「……特別です」


 家のウサギはよく出来たウサギなのである。


 僕が自信満々一匹のウサギを差し出すと、じっとりと暗黒騎士の圧が増した気がしたが、うちのウサギさんは怯まない。


 鎧の手が毛皮に沈み……大人しく頭をなでられたウサギさんは、気持ちよさそうに目を細めて鼻を鳴らした。


「……ほぁ」


 これは、たぶん喜んでる? たぶん喜んでいると思う。


 暗黒騎士から迸る暗黒のオーラは、気づけばバラ色になっていた気がした。


「……お客様?」


「ハッ! い、いや何でもない。いや素晴らしい店だね。贔屓にさせてもらおう」


「……是非。そうだ、こちらをあなたに差し上げます」


「これは?」


「……ポイントカードです」


「ポイントカード?」


「……こんな風に、ウサギさんのスタンプを押します」


「ウサギさんスタンプ……かわいいな」


 ぺたりとボクはウサギさんのスタンプを押す。


 それを見た暗黒騎士はスタンプの押されたカードをしっかりと受け取り―――


「いただこう。我が名は暗黒騎士ザイン、困ったことがあったらいつでも言ってくれ」


 そして特に説明もしていないのに、納得してポイントカードを懐にしまった。


 なんだろう……この人とは分かり合える気がする。


 彼はお客には、若干怖がられて道が左右に割れていたけれど、間違いなくこの店のお客さんにふさわしい逸材だった。


 ほぼ同志と確信しながら。ボクはウサギ好きの暗黒騎士に幸あれと祈っておく。


 一人でここに入って来た彼はまさしく勇者であった。


 ちなみに各種景品は用意しているが100回を超えるお客様には、試験的に相棒ウサギをプレゼントできないかとたくらみ中である。


 ウーサー=キングス、ひとまず喫茶店を制覇しファンを増やした記念すべき日の出来事だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルを見て、ふとウォーターシップ・ダウンのうさぎたちを思い出しました。
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