うさキングの野望
ボクの名はウーサー。
ウーサー=キングス。
ちなみに王族でもなければ貴族でもなく。ギフト“うさキング”を神様に与えられた、商人の息子である。
「……じゃあいこう」
ボクはウサギさんを抱えて、日課の散歩に出かけた。
町の中には、ところどころに、それこそ子供までがウサギさんを抱え、歩いているのはもはや日常の風景だった。
「やぁ! ウーサー! いいニンジンが入ってるよ! ウサギさんにどうだい!」
「……沢山ください。ありがとうございます」
親切な町の八百屋さんからニンジンを買い、箱ごとバッグにガンガン詰める。
そして二本だけ取り出したニンジンをウサギさんとシャクシャク齧りながら、ボクはいつものカフェに向かった。
お前も食べるのかという視線を感じなくはないが、ニンジンは好物である。
チリンチリンと正面のドアを開け、店内に入るとすっかりなじんだ暗黒騎士がボクを迎え入れた。
「おはようございます店長。すぐにミルクを用意しますね」
「……おはようございます。お願いします」
ボクはいつもの席に座り、ミルクをいただき、ホッと一息。
やはり朝は特製ミルクに限る。
ウサギカフェは店員さんの活躍もあって、朝いつも見る顔ぶれも定着してきた。
冒険者に、近所のママさんに、どこかの店員さん。
ここにいる誰もかれもがウサギさんを愛でているという光景はいつ見ても素晴らしいと思う。
町の人々もまた、ギフトを使いながら、もしくは使わずに自らの人生を生きている。そんな彼らにこの店の中のような光景をどんどんと広げていきたいものだ。
今頃、ボクの大切な人たちは何をしているだろう? 少なくともボクのウサギさんと共にある人達には笑顔でいてほしいと願うばかりだ。
この頃ボクの両親は、商売に励みながらボクのウサギさんグッズ販売にもずいぶん力を入れてくれているようだ。
今頃知り合いの勇者パーティはどこかのダンジョンをまた一つ踏破し、ひょっとすると更なる試練に挑んでいるかもしれない。
ボクが人生で出会った彼らはすべからく、ボクにとって愛すべき隣人であり、その力になれるのならばとてもうれしい。
うさキングのギフトは愛すべき隣人たちにわずかばかりの手助けができるとボクは信じていた。
「……じゃあ、ウサギさんショップの方も見てきますね」
「はい。いってらっしゃい。……ひょっとして噂の二号店ですか?」
「……そうです。いつでも遊びに来てくださいね?」
「絶対行きますよ! ……うおっほん。では気を付けて」
暗黒騎士さんに見送られ、ボクは店の外に出た。
すると先ほどから“書”は二号店への来客を知らせて、熱を持って輝いていた。
ボクは二号店の玉座をイメージして目を閉じる。
数秒して目を開いたら、もうそこはすでに玉座の目の前だ。
ギフトが成長し、与えられたこの場所への転移機能はとても便利である。
知らせ通り玉座の間への扉が開き、見知らぬお客様は恐々と部屋に入って来るところだった。
ボクはこの城に入ると自然と現れるふかふかの赤いマントを翻し、頭に乗った王冠のズレを直すと城の主人として、お客様を向かへ入れた。
「……ようこそ。ここは新たな出会いの場。『ウサキングダム』二号店。君にピッタリのウサギさんを紹介するよ」
新しい出会いはまだまだ次々にやって来る。
この城はそんな彼らとの出会いの場にするつもりだった。
神様のお墨付きまでいただけたのなら、立ち止まるという選択肢はボクにはない。
人生でやるべきことを見いだす。
それは大変なことであるとボクは思う。
でもボクのやるべきことはすでに、そして常に一つだ。
いや、今となってはボクと、そしてとある神様の野望と言ってしまってもいいだろう。
それはボクのウサギさん達をもっともっと―――たくさんの人に届ける事。
ボクの野望を成就するための準備はすでに整っている。
君の夢の友。
君の隣人。
君の分身。
君がボクのウサギさんといつか出会ってくれるととても嬉しい。
そこにウサギさんへの愛を持ってくれれば幸せだ。
ボクはこのあり余るほどのでっかい愛を、ウサギさんと一緒に君達に送ろう。
ボクの名前はウーサー=キングス。
いつの日か、この世界をウサギさんで繋ぐため、ウーサー=キングスは止まらないのである。




