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ウーサー=キングスとウサギの城

「――――――!」


 はっと気が付くとボクは勇者パーティみんなにのぞき込まれていた。


 時間はそう経過していないようで、ボクが玉座に触れた直後らしい。


 心配というよりも驚きが先に立つ彼女達の表情は、すでに安堵に代わっていた。


「いきなり倒れたからびっくりしたよ。大丈夫?」


「ボ、ボスモンスターも消えたみたいです。やっぱり玉座になにか仕掛けがあったんですか?」


「なにか驚いてる? どっか痛い?」


「……えっと」


 次々に質問が飛んできたが、ひとまず今会ったことを端的に言うとこうだ。


「……ボク、ちょっと神様に会ったかも?」


「「「???」」」


 それは意味が分かるまい。


 ボクにも分からないのだから当然である。


 でも、ダンジョンはこれで攻略完了とのこと。


 もし今のがただの夢でないのなら、何かあってもよさそうなものだ。


 何せこのダンジョンの仕掛け神は、最高神ウルティマ様なのだから。


 とはいえ常識から外れた夢であったこともまた否定はできない。


 何と説明したものかと、本気で悩んで呆けているとその時地面が揺れた。


「な、何事!?」


「く、崩れるんですか!? ダンジョンから早く脱出を!」


「結構深く潜ったよね! 今からじゃ間にあわない!」


「いや……大丈夫」


 妙な確信の籠ったボクの声に勇者パーティは困惑していたようだが、揺れが収まったのはほんの数秒後の事だった。


 いつの間にか窓が出来上がり、薄暗かった部屋の中に、光が差している。


 ボクはそこから窓からテラスに出た。


 するとテラスはずいぶんと高い位置にあって、城の周りの風景が一望できた。


「……おお」


 そしてボクのうさキングの書が熱を持ち始め慌てて開くと、新たなページが刻まれていた。


 “うさキングキャッスル召喚”


 なるほど?……どうやら力とはそう言うことのようだった。


「……」


 いやいやいやいや。ちょっと待って?


 何度かチェックしたが、文字に間違いはない。


 すべては神様の言う通り、気前のいいプレゼントは無事ボクに譲渡される運びとなったようである。


 だからなのか、すでに城がダンジョンであった時とは決定的に何かが違うとボクにはわかった。


 まるで城そのものが体の一部になったような不思議な感覚を、同じく理解できているのは魔法の知識のあるリーナさんだった。


「く、空間が正常に戻って、魔法が解けた? みたいです。完全に攻略された、ということだと思いますけど……」


「城はそのまま残るなんて。ダンジョンって攻略すると消えるんじゃ?」


「ふ、普通はそのはずですけど……変わったダンジョンといしか」


 どうやら冒険者から見ても、あまり普通の事ではないらしい。


 ボクらはしばらくもう揺れないかとおどおどしていたけれど、変化がないのを確認して、誰ともなく、ドサリと崩れ落ちる様に床に腰を下ろしていた。


「はぁ……一時はどうなる事かと思ったけど、何とかなってよかった~」


 長く息を吐きながらそう歓声を上げたのはサリアちゃんだった。


 その表情はなんともすがすがしく、何よりホッとしているのが見て取れる。


 そんな彼女を見て、リーナさんがニヤニヤしていることに気が付いた。


「でも……ウーサー君連れてきて良かったですね。サリアちゃんが、強引に誘った時はどうしようかと思いましたけど」


「ちょ!」


 サリアちゃんは動揺していたが、トトさんもうんうんと頷く。


「まぁそれは思ってた。今更なんだけど……なんであんなに強引に誘ってたの?」


 言われてみれば確かに、誘い方としては強引だった気がする。


 ボクの考えをバッチリ汲み取ってくれていたから気にしなかったが、行ってしまえばサリアちゃんの方から今回の冒険を立案されたところはあっただろうと思う。


「あぁ、それは……まぁ」


 ただ実際思うところがあるのかサリアちゃんの返事は曖昧だった。


「わ、私はなんとなくわかりますよ。前にウーサー君と一緒にダンジョンに潜ったことがあったんですけど。私とサリアちゃん、大失敗して、ウーサー君をダンジョンの奥で見失ったんですよ」


「えぇ!? それって大丈夫だったの?」


「……いや」


 大丈夫だったのかと言われると、かなり危険だった。


 だが結果的に大したケガもなかったのだからもはや昔のことだとボクは思う。


 でもサリアちゃんとリーナさんは気まずそうで、口を開いたのはリーナさんだった。


「まぁ見ての通りなぜか大丈夫だったんですけど。その時倒されたボスモンスターもウーサー君が無事だったことも全部私達のお手柄みたいに言われちゃって、サリアちゃんずっと気にしてたんです」


「いや別に……気にしてなんて。いや、気にはしてたけども」


「あー……なるほど。じゃあ今回のウーサー君が喜びそうな依頼はチャンスだったんだ」


 納得した風のトトさんの言葉に、サリアちゃんは視線をさ迷わせてなにか言おうとしていたが、何かをあきらめた様に天を仰いだ。


「…………そうよ。新しいダンジョンに冒険者でもない人が入るなんて本当なら反対すべきだってわかってた。でもそうしなかったのは……あの日の清算をしたかったからかも」


 あまりにも力ないサリアちゃんの言葉にボクは驚いた。


 ああなるほど。そう言うことだったんだ。


 もう昔の話だし、ボクも生きているんだから全然気にしなくてもいいんだけど、サリアちゃんと、リーナさんはそう言うわけにもいかなかったようだ。


 申し訳ないなぁと逆に思っているとサリアちゃんと目が合う。


 サリアちゃんは真っ赤な顔で視線をさ迷わせてから、ガクリと肩を落とした。


「私があの日なんにも出来なかったからウーサーは罠に巻き込まれて怪我をした。ボスを倒したのも私じゃない。なのに全部私達がやったことになったなんて、そんな馬鹿な話はないでしょ?」


 あのサリアちゃんが恥じ入っている。


 とてもレアな表情に、素で驚いてしまったボクは失礼な奴だと思う。


「ゴメン……私の都合で。でも私は、ウーサーともう一回冒険がしたかっただけなんだ。今度は楽しい冒険を」


「……そうなんだ」


「うん……ウーサーが行きたいから力になりたいって言うのも本当なんだよ?」


 サリアちゃんには似つかわしくない、弱々しい声色だった。


 しかし、今の話のどこに恥じいる要素があったと言うのだろう?


 昔も今も、ボクが参加した冒険はボクが発端となったものだ。


 そしてそのどちらも、何が起こるかわからない危険と隣り合わせだと言うことは分かり切ったことだった。


 なによりボクはこう考える。


「……じゃあ、問題ないです」


「なんでよ?」


「……だって、前の冒険も。今回の冒険も楽しかったから」


「本当に?」


「……もちろん。ありがとうサリアちゃん」


「……ちゃんっていうな。ウーサー」


 サリアちゃんは素直に喜べないようだけれど、本当に前の冒険も今回の冒険も楽しかったし、ボクには得るものが沢山あったのだ。


 それはもちろんボク自身の成長という意味合いもあったが、ちゃんと目に見える成果としても十分すぎたと思う。


 うん。サリアちゃんたちの話を聞いてボクもやっと頭の中を整理して受け入れることが出来た。


 ボクは素晴らしい冒険をして、仲間達は困難を乗り切り、正当な報酬を得たわけだ。


 そこになんの憂いがあると言うのだろう?


 むしろ他ならぬ神様のお墨付きに引け目を感じる事こそ、まずい気がしてきた。


 得たモノは分かち合ってこそ一緒に喜べるというもの。それを今までやらなかったからこうしてすれ違いは起こるわけで……。


 だからボクは堂々と、今回手に入れた報酬を仲間達に伝えることにした。


「……実はこの冒険のおかげで、ボク、この城もらえるみたいです」


「「「……なにそれ?」」」


 まぁ意味が分からないですよ普通。


 でもこれならどうだろう?


 ボクはいつも通り、”うさキングの書”を開き、ウサギさんを呼び出した。


 そして出て来たウサギさんにこう命じた。


「……城のウサギさんを集めてくれる? それと―――」


 耳打ちされ頷くウサギさんが走って行って数分後、ウサギさんが次から次にピョンピョコ跳ねてやって来る。


「「「……」」」


 あっという間に部屋に集まったウサギさん達は、全員潰れそうなほどの財宝を抱えていた。


「……うん。ありがとう。じゃあ報酬を山分けにしよう」


 言葉通り、ボクの満足感と正当な報酬を共有しよう。


 ただボクとしてはどんな城や財宝よりもこの部屋いっぱいのウサギさん達の歓迎が一番嬉しいと感じるのは共有できないかもしれないなと、そんなことを想うウーサー=キングス、旅の終わりである。


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