ウーサー=キングスとセーフゾーン
城の小部屋で黒いオーラを纏ったウサギさんを、トトさんが迎え撃つ。
「……! こんなレアなギフト持ちまでいるのか!」
空中に高く飛び、高速回転しながら大剣を打ち下ろすウサギさんは、小柄で敏捷だった。
打ち合ったトトさんの光の剣と暗黒騎士の闇の剣が激しくぶつかり合って、見たこともない虹色の閃光を弾けさせる。
だが勝敗は力の強い方に軍配が上がったようだ。
闇は光に切り裂かれ、暗黒騎士ウサギさんは真っ二つ。
消えたウサギさんを確認し、暗黒騎士の黒いオーラの残滓を振り払うトトさんは軽く息を整えていたが怪我はないようだった。
「あの黒いのってチリチリするんだ……」
「暗黒騎士と模擬戦したことあるけど、なんかこう。絶妙に気持ちが悪くなるのよねアレ」
「た、確かに、あぶられると陰気な気分になりますよねアレ」
女子三人の暗黒騎士オーラに対する評価をザインさんが聞いたら、枕を濡らすのではないかな?
男の子的に端から見ている分にはかっこいいのだが、直接喰らうとそう言う評価になってしまう様だ。
いろんな意味で悲しみが深いけれど、光の中に消えるウサギさんはその散り際が見事だったとだけ語るとしよう。
しかし喜ぶべきこともある。
暗黒騎士ウサギさんの守っていた宝箱には、金貨の山が入っていた。
「おお! やっぱり未探索のダンジョンはあっさりお宝が出るなぁ……。マークがウサギだけど金貨ですね」
「並々ならない拘りを感じる」
「……」
まるでボクみたいだななんて思っても言わないでおこう。
でもうっすらと仲間内から感じる視線には言外にそう言うニュアンスを感じなくはない。
町をウサギまみれにした男、そうそれはボクである。
空間が歪むダンジョンのお城の中は、ところどころにボクですら唸ってしまうこだわりが目白押しだった。
宝一つとってもそうだけれど、細部の彫刻はウサギさんが所々にあしらわれ、ウサギさん専用と思われる通路まである。
いったいどんな神様が考えたのか? 一人のウサギさんフリークとしては尊敬してしまうこだわりだった。
探索もそこそこに、ダンジョンを奥へ奥へと進むと、ウサギさん達は明らかに強くなってゆく。
最初はかろうじて戦えるくらいの実力だったウサギさんが、上級のギフトを扱い始め、暗黒騎士までいたとなると少々普通の冒険者には手に余る危険度だと言えるだろう。
それはすでに勇者のパーティ3人ですら負担になり始めるほどにだ。
「ふぅ……このまま強くなり続けられるとさすがにしんどい」
「で、でもどうにかなったみたいですよ。ホラ、たぶんあの部屋セーフゾーンです」
「おぉ案外早かったね」
リーナさんの言葉を聞いて、トトさんとサリアちゃんがホッとした表情を浮かべている。
ボクもセーフゾーンについては少し知っていた。
セーフゾーンとは、ダンジョンの中でモンスターがいない安全地帯の事を言う。
そしておおよそ、ダンジョンのボスモンスターの近くにこのセーフゾーンが存在することが多いらしい。
ダンジョンを挑む者達にとって最後の休息地点、それがセーフゾーンである。
急いでボクらはセーフゾーンに駆け込むと、さすが城のダンジョンだけあってセーフゾーンも特別製だった。
「……うさぎダンジョンのセーフゾーンは食堂なんだ、ものすごく豪華だ」
「いや、こんなことはそんなにないからね?」
「じょ、常識じゃないですよ? ウーサー君」
「まぁいいじゃないか。ゆっくり休めそうなのは本当にラッキーだ」
王様でも使っていそうな大きなテーブルのある部屋は、ふかふかの絨毯に、たくさんの蝋燭でライトアップまでされていた。
ボク個人的にポイントが高いのは、ウサギさんの描かれた椅子だろうか。
「……じゃあせっかくだから、ボク達が料理も用意する」
「え? ボク達って?」
「……ボクとウサギさんです」
トトさんにはあまりなじみがないだろうけど、もっとウサギさんの良さを体感してもらうにはちょうどいい。
ボクはすぐさま準備を整えるべくうさキングの書を開いて、召喚した。
書が開くウサギの巣穴を通り、食材とともに現れるシェフ帽をかぶったウサギさん達は、腕組みをして気合も十分である。
町中のシェフたちから教えを授けられた我がシェフウサギさん達の腕前をもってすれば、ダンジョンの最奥も高級レストランに早変わりだ。
てきぱきとプロの手際で料理を完成させれば、4人分の食事がボクらの前に並ぶのはあっという間の事だった。
思った以上に豪華な料理の数々にトトさんも感嘆のため息を零していた。
「うぁ……なんか、お城の料理よりもすごいんだけど? すごいなウサギさん。君もこんなこと出来るの?」
「ウウッー……」
トトさんは自分のウサギさんを抱き上げて言うが、それを見たパーティーメンバーは苦笑いを浮かべていた。
「そ、その子にはまだ無理だと思いますよ。教えてあげれば覚えてくれますけど」
「そうそう。頼めば大抵のことは覚えてくれるけど、ちょっと時間がかかるんだよね」
「はぁそうなんですか……残念。でもウーサー君はいろんなウサギさんを召喚できるんですね。確かに冒険に一人は欲しい便利さだ」
「でしょう?」
うん。そんな一家に一台欲しいみたいに言わないで欲しいけれど、この利便性こそウサギさんの真骨頂である。
おかげで十分な食事と、休息がとれるのだからウサギさんの素晴らしさが伝わらない訳がない。
食事が終わり、落ち着くとボクらはこの後どうするか方針を話し合うことになった。
もうすでにずいぶん満足そうなのはトトさんで、彼女はニコニコと笑顔である。
「セーフゾーンの位置まで確認できるなんて、調査的にはバッチリだよね」
「え、ええ、モンスターの分布も調査出来てますし。成果としてはここで引き上げるのもアリですよ」
リーナさんも、新しく出来たダンジョンの調査という任務はすでに十分すぎるという判断のようだった。
そしてサリアちゃんもにこやかに頷いた。
「うん。道すがらアイテムも相当期待できそうだった、初回の調査としては十分よね」
だがここでサリアちゃんはピッと、食事用のフォークを持ち上げた。
「でも……」
「「でも?」」
そして仲間達の視線を集める中、そのフォークをボクの方へ向け、言ったのだ。
「この先、行きたいよね? ウーサー」
「……え?」
そんな提案を不意にされボクは固まる。
それはウーサー=キングスにとってとても大切な分岐点であることに疑いのない質問であった。




