ウーサー=キングスとウサギダンジョンの恐怖
あらかわいい。
「……ウサギさんがいっぱいだ」
扉をあけ放つとそこにたっぷりといたウサギさん達はじっとこちらを見たかと思うと、すさまじい速さで、パッと逃げて散った。
鮮やかな逃げ足もだが、ボクは確かにいた噂通りのウサギさんたちに感無量だった。
いつまでも感動したいところだったけれど、そんな場合でもない。
「何やってんの! 護衛対象が最初に入るな!」
「そ、そうですよ! ウーサー君は後ろに!」
急に中に入ったことをみんなから叱られつつ、探索スタートである。
戸惑いながらも、真っ先に動き出したのは大魔導士リーナさんと彼女のウサギさん達だった。
リーナさん達のウサギさんは彼女の慎重な性格と、魔法使いのギフトの性質上、安全確保のために危機感知に優れている。
そして興味津々なリーナさんもまた直接周囲を調べながら、感嘆していた。
「うわぁ、内装も完全にお城ですね……でも空間は正常ではないみたい」
やはり大魔導士ともなると、魔法についての知識も深いようだ。
ダンジョンの罠は何も物理的な物ばかりではなく、魔法を駆使した不思議なギミックもあると聞く。
魔法はギフトもそうだが、知識の量もモノをいうと言うしその辺りの感覚はリーナさんに頼っておくべきだろう。
軽くスケッチまでしているところを見ると調査の一環なのだろうけれど、楽しそうに作業していて頼もしかった。
一仕事終えたリーナさんはふぅと額の汗をぬぐいつつ、ダンジョンについて語っていた。
「……これは厄介ですよ。複雑に入り組んだ通路を、魔法でぐちゃぐちゃに繋げてあるみたいです、ある程度正解のルートの見当はつきそうですけど、外観以上に広さはあると思っておいた方がいいです。こういう建物を模したダンジョンはだいたい罠とセットですし……気を付けていきましょう」
「そうね。でもうちのウサギ達ならうまくいけそうよね?」
「……たぶん。今日はウーサー君もいますし」
チラリとサリアちゃんとリーナさんはボクの顔を見る。
ボクもきょとんとしてしまったが、トトさんもまたボクと同じような顔でボクを見ていた。
「ウーサー君、何か関係あるんですか?」
するとサリアちゃんが、なぜかウムと深く頷き、すごく得意げに胸を張った。
「もちろん。私達のウサギはサポーターも兼ねてるからすごく器用なんだよ。それにウサギは全部ウーサーのギフトで出したものだから、ウーサーが近くにいれば能力も上がる」
「そうなの!?」
「そ、それと。ダメージを喰らっても無限に回復可能なんですよ。控えめに言って反則です」
「ウサギって、そうなんだ……」
ええ、それはもちろんですとも。
でも普通のウサギさんは怪我をしたら死んじゃうので大切にしてあげてください。
ああでも、味方のウサギさん達も加わるとダンジョン内がもっと素晴らしい景色になってしまった。
敵も味方もウサギさんだらけなんて、天国のような場所である。
ただ、気にかかるのはボクらがダンジョンの中に入った瞬間、ウサギさん達がこちらに向けた視線だった。
その視線はいつものかわいらしい物では決してない。
ピョコンと一匹のウサギさんが僕らの前に飛び出してくる。
ただそのウサギさんは、大きな帽子をかぶり杖を構えていて、ボクらに向けていた。
「……え」
「ウーサー! 敵襲!」
氷の魔法が放たれ、ボクは仲間に引き倒される。
ウーサーが自分達に向けられるウサギさんの視線が底知れない敵意だと気がついたのは、実際にその脅威にさらされた後だった。




