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ウーサー=キングスと運命のダンジョン

 旅は順調に進み、町を出発してから2日ほどで目的地にたどり着いた。


 人の通らない山道は過酷だったが、まだ開拓されていないダンジョンの入り口としては簡単だった部類に入るかもしれない。


 しかし歩きなれない山道を踏破してきた価値は十分にあったと、ボクはそう感じていた。


「……これはすごくいい」


 丘の上からその場所は見えた。


 鏡のように陽光を反射する大きな湖の側にあるその場所にボクは息を飲んだ。


 大自然は町ではお目にかかれないスケールで、それだけでもとても美しく感じられただろう。


 だが何より目を引く聳え立つ白亜の城は、まさしく神々の手で作られたのだという迫力があった。


「あれが新しいダンジョン。まるでお城みたいでしょ?」


「……ホントに? 人が建てたみたいだ」


「突然現れたダンジョンにはそういうものも多いよ。中には空中に浮く島とか、機械仕掛けの建物なんていうのもあったよ」


「……それは見てみたいな」


 トトさんは自分の経験を話してくれたが、一般庶民のボクには想像もできない話である。


 だけど実際目の前に城が一つあるのだから本当の事なのだろう。


「……素晴らしい」


「いい景色だよね。気に入った?」


 サリアちゃんにはクスクス笑われてしまったが、ボクはもちろん大層気に入った。


「……とても。ここに住みたいくらいに。連れてきてくれてありがとう」


「そんなに? ええっと……でもこの山奥に住むのは大変そうだよ。それに―――まだ喜ぶのはちょっと速いかもね。ダンジョンの中はきっとこんなもんじゃないよ?」


「……それは確かに」


 ボクがそう言うとサリアちゃんは、冒険者らしい凄味のある笑みを浮かべてダンジョンを指さした。


「今からそこに突っ込むんだ。すぐに堪能はできるよ」


 ああ、それはもう骨の髄まで堪能出来そうではある。


 サリアちゃんてば意地悪なことを言うんだから。


 でも、気を引き締めなければならないという警告は理解した。


 ほんの少しでも恐怖を覚えると、さっきまで美しいだけだった神様のお城も、何やら不気味に思えてくるのだから不思議なものだった。




 しかし辿り着いたダンジョンの入り口を見て、ボクら全員は眉間に皺を寄せていた。


「「「……」」」」


 ダンジョンになれているはずの彼女達が揃って怪訝そうになるのは異常事態である。


 ただ……一番驚いたののはボクだという自信があった。


「……これは」


 城型ダンジョンなのだから、門があるのは想定内だ。


 実際、目の前まで来たそれはまさしく城門のような入り口だった。


 石壁に覆われた大きな扉が、地面から生えている。


 しかし―――気になるのは門にでっかく刻まれた、マークだろう。


「ウサギだ」


「ウサギだね」


「ウサギ……ですよね?」


 まさしくウサギさんである。


 どう見てもそれはウサギさんのマークなのだ。


 それも見慣れたボクの”ウサギさん”のマークが門にはっきりと刻まれていた。


「……!」


 ドクンと胸で跳ねたのはボクの心臓か、それともギフトか。


 きっとどちらもだろうとボクは思う。


 ああ……ここは本当に『ボクのためのダンジョン』だ。


 それはどこか導かれるようにだったと思う。


「ちょっ……!」


 体が自然と動き、中にいざなわれる感覚。


 止めようとした誰かの声は、扉の開く重々しい音でかき消される。


 ウーサー=キングスは運命に突き動かされるように扉を開き―――言葉を失った。


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