ウーサー=キングス大海を知る
さてボクは、冒険者というものをある程度知っているつもりだった。
もちろんそれは華やかな部分だけでなく、それなりに冒険者の実態を含めてである。
しかし―――様子見というていでモンスターと戦う彼女達はボクの知っていた冒険者とだいぶん違っていた。
まず最初の目標は一匹のボアである。
巨大猪は家にだって大穴を開けてしまうほど大きくて危険なモンスターだ。
勇者パーティーはその可哀そうなモンスターを視界にとらえた瞬間、動き出した。
初手、サリアちゃんは幼い時に見たものとは比べ物にならないほど静かに―――そして手早く戦闘を終わらせた。
「……うーん。歯ごたえがない」
たったの一振りで戦いは終わってしまった。
それどころか、ボアの背後の大木まで一刀両断である。
とりあえずあんなにサクサクボアは斬れないと思うのだけれど、剣聖の剣ではそういうことはないらしい。
新たに襲い掛かって来たのはスライム。
ある程度の大きさになると核を潰さないと倒すことが出来ない難敵に早変わりするのだが、リーナさんが当然のように前に出て、杖を構えると炎が揺らめき―――でっかい火炎が落っこちて来た。
「も、脆すぎですね。単体相手にするのへたくそなんですよ?」
やりすぎちゃったかな?という風のリーナさんはそれはもうオーバーキルだった。
昔見たのよりかなり大きなスライムも、核なんて諸共消えてなくなるほどの火力の前では、ただの水蒸気だった。
もうどこにいたかもわからないのだけれども、ボクは思わずスライムの冥福を祈ったほどだ。
そして続いてはレアモノのゴースト。
実体を持たず、魔法や聖なる光でしか倒せないモンスターなんだけれど、トトさんが立派な鞘から剣を抜き放つと、真っ白い光の中に消えていった。
「あちゃぁ……張り切りすぎたかな?」
こちらは文字通りの完全消滅である。
剣である必要があるんだかないんだかわからない光にゴーストは飲み込まれた。
たった一体の人間サイズのゴーストの墓標は天を突く、光の十字架だった。
手加減したけど、威力過多だったとでも言いたげなトトさんの声はまさしくその通りなのだろう。
そしてそれを―――見守るボク。
とてもスマートな戦いっぷりにボクは思わず感想が漏れた。
「……とても強いですね」
というか強すぎる。
ボクの何のひねりもない賛辞に、3人の女の子は照れていたけれど正直アレに混ざれる気はしない。
こう……子供の時から戦闘能力という点について圧倒的な差は感じていたが、今は対岸の見えない大海でも見ている気分だ。
闘いの運命に選ばれた最上級のギフト持ちとはこういうものなのだろう。
彼女達はここ数年でさらに成長し、戦闘において一般人とは隔絶した実力を身に着けていたようだった。
「やっぱり町の近くじゃダメかー。モンスターが弱すぎる」
サリアちゃんがため息を吐いていたけど、それはそうでしょうね。
ただトトさんは鞘に剣を収めながら、にっこり笑った。
「軽く実力を見せる程度なら十分じゃないかな? 今の戦闘だけでもとても強いことはよくわかったよ?」
「ウッウー!」
勇者ウサギさんがかわいらしく頷く姿でボクはどうにか不安を収めた。
このウーサー=キングス。ギフトの恩恵があろうとなかろうと出来ることは後方支援のみ。
このギフトの過剰戦力にボクの入る余地はないのである。




