ウーサー=キングスとカフェの店員
「ちょっとすぐに返事は出来ないかも……」
それは全く当然である。
実質お断りされてしまったのだと頭を冷やせば理解できた。
冒険者でもないのにお恥ずかしい。しかしウサギのモンスターはずるいと思う。
その日はいったんトトさんとは分かれて頭を冷やせば羞恥心が後から襲い掛かって来た。
ちょっと辛いので、ボクはいったんすべてを忘れることにした。
では仕切り直して、ボク、ウーサー=キングスはお店を経営するオーナーでもある。
ある時はウサギのレンタルショップ。
そしてまたある時は、ウサギカフェにてキングス家の名に恥じないよう、日々精進している。
努力の甲斐もあって、今やこの二つの場所はこの町でなくてはならない場所になっていると自負している。
ウサギカフェで町の人にウサギさんの可愛さを伝え、レンタルショップでウサギさんの能力を伝えるまさに完璧な布陣である。
今日はカフェの日。
カフェの方はウサギさんの可愛さを一人でも多くの人に伝えるべく、日々新しいウサギさんの可能性に挑戦している癒しのお店となっている。
金色のドアベルをカランと鳴らし店内に入ると、黒地に白く店のロゴの入ったエプロンをつけたスタッフがボクを迎え入れた。
「おはようございます店長」
「……おはようございます。新メニューの調子はどうですか?」
「順調ですよ。黒兎のココアラテも喜んでいただけました」
「……それは良かった。アレはとてもおいしいです」
「そ、そうですか? 何だか照れるな」
新商品を開発した銀色の髪を照れ隠しに撫でる三十代前半くらいの男性は、我が店期待の店員である。
そんな照れ顔にハートを飛ばしているご婦人方も多いことだろう。
大分増えてきたメニューも余裕で捌くその姿が実にカッコイイ店員さんである。
彼も頑張ってくれているようで、とても繁盛しているのだからボクも頑張らなければならない。
そんなボクが始めた新たなサービスは、子連れのお客様に向けた、お子様お預かりサービスである。
ボクは様子はどうなっているかと奥の建物をもう一つ買い、ぶち抜きで作ったスペースに向かうと、そこには素晴らしい光景が広がっていた。
「……おおー」
ビックウサギさんがドデンと寝ていた。
ゆっくりと上下するボリューム感たっぷりなお腹の上で複数の子供たちが寝息を立てている。
絵本に出てくるようなそんな光景を実現させたのは、そう、何を隠そうこのボクのギフトだ。
ビックウサギさんを自由に召喚できるようになるまで大変だった。
ギフトの成長は努力無くしてはあり得ない。
そのかいあって、このビックウサギさんのふわふわの寝心地を手に入れることが出来たわけだ。
ビックうさぎさんはお日様のような香りがする最高の癒しウサギなのだ。
今にもあの中に飛び込みたい衝動にかられるのをぐっと我慢して、ボクは満足して深く頷いた。
しかし、とてもいい気分だったのに、店が騒がしいことに気がついて、ボクは店に戻るとそこには喧嘩をしている冒険者風の男二人がいた。
「おい! 一口くれたっていいだろう! 減るもんじゃ無し!」
「減るんだよ馬鹿か!? これは俺が頼んだんだ! 食いたいならもう一個頼みな!」
……どうやら店のメニューをお気に入りいただけたようだ。ありがとうございます。
しかし他のお客様もいらっしゃるので、大声で言い争うのはやめていただきたい。
ここは店長として一言注意しようかと考えていると、そこにすっと現れたのは頼れる店の店員さんだった。
「お客様。もう少し声をおとしていただいてもよろしいでしょうか? 他のお客様のご迷惑になりますので」
「「あぁ?」」
しかしそこは冒険者だ。荒っぽい返事が聞こえたが、冒険者たちは店員の彼の姿を見て表情が変わった。
なぜならば注意した店員さんから暗黒のオーラが迸っていたからである。
触れたら一瞬で死んでしまいそうなオーラは圧がすさまじい。
そして相手もさすがは冒険者、そのオーラを一目見ただけでどれほど危険かはすぐに理解したようだった。
「「す、すみません……」」
「いえいえ。では静かにお楽しみください」
にこやかに笑い頭を下げる彼は、ある時は期待のイケメン店員。
ある時は、店の用心棒―――
その正体は、趣味と実益を兼ねて店員に立候補した彼、暗黒騎士ザインの名前で知られる有名冒険者である。
ウーサー=キングス、頼りがいのあるスタッフに囲まれて幸せを感じる店長心であった。




