ウーサー=キングスととてもいい話
「……勇者?」
「そう勇者です! これでも結構強いと自信があります!」
それはそうでしょう。強くなければ首トンで誘拐犯を気絶させないでしょうし。
しかしまぁ勇者が具体的に何かはよく知らないんだけれど、なんとなくすごそうなギフトだなとボクは思いました。
我ながらあんまりな感想だと思うので、余計なことは言わないで胸の中にしまっておいた。
「それは……響きが綺麗なギフトですね」
「でしょう! カッコイイと思うんですよ勇者! 意味はよくわかんないけど!」
お前もわからんのかいとは言わないでおこう。
ムフーと鼻息荒く胸を張るトトさんの言うことに少なくとも後ろめたいところはないらしい。
とにかく溢れんばかりの誇らしさがあるばかりなのが、勇者が強力なギフトだと物語っていた。
ひとまず勇者というギフトが戦闘で強いギフトなんだというのは先ほどの動きを見ればわかる。
そして勇者のギフトを誇らしく思っているのと同様にウサギさんが好きということに嘘偽りがないならボクには十分だ。
このトトさんならきっと新たに生まれたウサギさんも大切にしてくれることだろう。
設定された料金もキチンといただいて、ボクはとっても満足である。
「……ではトトさん。その子は貴女と共に行きたいようです。よい冒険を」
「はい! 私もこの子すごく気に入りました!」
「ウッウー!」
喜んでくれているようで何より。
わざわざ町の外から尋ねて来てくれたのだから満足してくれたならうれしい限りである。
「トト様はウサギさんを相棒にするためにこの町に?」
「そう! 噂を聞いていても立ってもいられなくって! ウサギさん大好きなんです! あともう一つは……これ言っていい奴だっけ? まぁいいかな」
ウサギ愛を語るトトさんだったが、後にオマケのようについていた言葉をつけてくる。
いやな予感がしたが、構わずトトさんはあっさり教えてくれた。
「実は、この町の近く新しいダンジョンが生まれたらしいんですよね。その調査が一番の理由かな?」
「……はぁ、新しいダンジョン?」
それはまた物騒なような、景気がいいような複雑な話だった。
冒険者が集まる街としては、盛大に沸くところなのだろうが、ダンジョンが生まれれば、モンスターの危険が単純に増える。
住人としては可もなく不可もなく、なるほどという感じである。
ダンジョンの危険を調べるために勇者なんて人が派遣されてきたのならそれもよし、なんてあまり関心なく聞いていられたのもここまでだった。
「すごいんですよ? なんとそのダンジョン……中にウサギ型のモンスターが出るみたいなんですよ。ちょっと楽しみで」
「……そのダンジョン。ボクもご一緒してもいいですか?」
ハッとした時には、口に出してしまっていた。
ああ、ボクというやつは、なんておバカなのだろう。
しかしウサギと聞いては黙っていられない。
このウーサー=キングスはそのように生まれついた。
それが例えモンスターであったとしても、ウサギさんなら一目見ずにはいられない。
そう言う性分なのである。




