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ウーサー=キングスと王国の野望

 ボクは自室で目覚めた。


 めでたしめでたし。


 そう思っていた僕は甘かったのだとすぐにわかった。


 なんだかとても騒がしい。


 重い瞼をゆっくりと開くと……そこには黒い兜のドアップがあった。


「おお! 目を!目を覚ましたのだな! 大変なのだ! 私のヴォルフが! ヴォルフが消えてしまったのだ!」


 涙ながらに訴えるのは、親交の深い暗黒騎士さんだけではなかった。


「大変なんだ! お辞儀をして突然消えたんだよ!?」


「一体何があったんだ! 家出なのか!?」


「し、死んでしまったんじゃないよな!? 寿命なんかあったりするのか!?」


「……」


 うーん。とってもパニックの冒険者さん達が沢山いる。


 その原因は、ボクには大いに心当たりがあるわけだ。


 ボクの強制召喚は、召喚可能なウサギさんを呼び出すものだった。


 つまり町で働いていた他のウサギ達は一時的に消えることになる。


 結果、この混乱を巻き起こしてしまったというわけだ。


 しかし、情報として頭に入ってきても、受け入れたくない事というものもある。


 例えば―――そう。


 笑顔だけど、きっと怒っているパパンとママンを見てしまうとなおさらだった。


「……ウーサー。話があるのねん」


「……ウーサー? 一体今日はどこに出かけていたのかしら?」


「……パパン。ママン。」


 これにはとても重大で、やむにやまれぬ事情があるのねん。


 ああ、ボクの無謀な挑戦は町中に一斉にしれ渡ったということらしい。


 緊急事態だとしてもこれはまずい。


 まだまだ体も頭も痛いけれど、早急に対応しないと大変なことになる。


 というか、もうすでに大変だった。


「……これもウサギさんの魅力がそうさせたのだと思う」


「「「「それでいったい何があった!?」」」」


「……」


 ボクは覚悟を決める。


 こんなに各方面からこっぴどく叱られたのは後にも先にもここくらいだと反省に反省を重ねたウーサー=キングス冒険の苦い思い出の一日だった。




 今日も一日が始まる。


「……」


 大変な目に合ったが、何とか生き延びたボクは今日もウサギさんを抱えて町を散歩する。


 いつも通り。


 だがそのいつもは確実に変化があって、ボクは幸せを噛みしめている。


 ボクがウサギを抱いて歩いても、注目する視線はとても少ない。


 でもウサギさんが注目されなくなったなんてことではなくて……ぴょんぴょんと、ボクらとは別のウサギさんがすぐ横を通り過ぎた。


 少し視線をずらせば、ボクのようにウサギさんを抱き上げている人の姿も沢山いた。


「いらっしゃい! いらっしゃい! 温かいスープはいかがですか!」


 屋台の呼び込みの横では、大きな材料入りの箱を運ぶウサギさんがいた。


「今度ダンジョンに行くんだよ……そんでこいつを連れて行ってみようと思うんだが……」


「なんだ? 使えるらしいじゃないか? 何悩んでるんだよ?」


「いやだって……死んだら可哀そうだし」


「……かわいいからな」


 ウサギさんをダンジョンに連れて行こうと話し合っている冒険者さん達がいる。


 その数は、お店が出来る前とは比較にならない。


 ムフーとボクは鼻の穴を膨らませて、自分のウサギさんを撫でた。


 急速に、そう急速にウサギさんは町になじんでいた。


 『ウサギさん達がとっても便利!』そんな噂が流れていることと、ボクのギフトの急速な成長によって供給が安定したことはこの事実に無関係ではない。


 ボクは確かにそれはもう怒られた。しかし目的は確かに達成されたのだ。


 緊急召喚はもう二度とやらないと禁じ手に指定したわけだが、それは今後のためにも当然である。


 今回の一件は、得るものは多かったが、失うものも多かった。


 例えば、ウサギさんは条件次第では、突然いなくなってしまうかもしれないというイメージは、なるべく早く払しょくしたいが、挽回するには長い時間が必要だろう。


 ボクはダンジョンで学んだ教訓を生かさないといけない。


 頑張ろうと、ボク自分のお店に足を踏み入れ、店を準備する。


 そうしていると今日もボクのウサギさんを求めて、誰かが訪ねて来た。


「……いらっしゃいませ。ようこそ『ウサキングダム』へ」


 そして今日もウサギ達はまた一羽世界へと羽ばたいて行くのである。


 そのすべてが、きっとウサギさんの築く、カワイイ覇道の導なのだろう。


 ウサギの町はイメージできるところまで来ていた。


 ここはウーサー=キングス野望の出発点。運命の終着点はまだ遠い。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第一部完!?第二部はまだか?
[良い点] 毎話、末尾の一文が語呂が良くて好き。いつも楽しみにしています。 今回は、途中にもあって大満足です。 [一言] 久しぶりの更新、嬉しいです。 次も楽しみに待ってます!
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