ウーサー=キングスと迷宮のウサギ
焦げる様に焼き付いた文字は、今までの物とは違う。
分かってはいたけど、それがウサギさんであるのなら問題はない。
「……召喚」
ボクは迷宮のウサギをためらいなく召喚した。
召喚はいつもとほとんど変わらない。
現れたのも普通のウサギさんだ。
ああ……とても可愛らしい。
どこか目つきが鋭い赤い瞳。今までのウサギさん達にはいなかった漆黒の毛皮。
そして持っている武器はおおよそ武器に向いているとは思えない大鎌だった。
小さなウサギさんは、ジッとダイアーウルフを見ていた。
ダイアーウルフは出て来たウサギさんを見て、笑ったのが分かる。
虫を払うように前足でウサギさんを払おうとするのをボクは見た。
そこでボクの意識は落ちる。
意識が完全になくなる瞬間、迷宮のウサギさんの不機嫌そうにタタンと足踏みした音が聞こえた気がした。
「ウーサー! 大丈夫!」
「だ、大丈夫ですか!」
「……」
殴りこむような勢いで救助に来たサリアちゃんとリーナさんの声で目が覚めた。
ぼんやりしていたが最初の疑問は、なんでボクは今生きているんだろうと言うことだった。
あのタイミングで意識を失ったのなら、助かるわけがない。
でもボクは生きていた。
「いた! い、生きてる?」
「……生きてます」
「かかか、回復! 回復をしないと!」
「……不思議とかすり傷です」
二人の質問にとりあえず答えてみる。
しかし、一番大事な答えは持っていない。
しばらくしてサリアちゃんの質問が途絶え―――そして彼女は驚いた顔で、ボクに訊ねた。
「ねぇ……あれ、ウーサーがやったんだよね?」
ボクは彼女の指さす方を確認して、それを見た。
「……」
ダイアーウルフが真っ二つだった。
見た感じ、一太刀で頭から尻尾までパッカーンである。
魔物の核まで綺麗に割れた状態で、その体はすでに崩れかけていたのだ。
あれだけ強かった相手の有様にボクは絶句する。
残ったウサギさん達で、どうやったってあいつは倒せるはずがない。
それを誰がやったのか、状況を見ればボクしかいないが、生憎とそんな記憶はなかった。
だけど、ぴょんぴょん飛んでやって来た黒いウサギさんを見つけてボクは思い出す。
迷宮のウサギ。
この子がやってくれたんだ。
ボクはウサギさんを抱き上げて、宣言した。
「……なんか落とし穴から落ちたら、オオカミの頭に直撃した」
最期の力である。
「「ウーサー!?」」
ボクは崩れ落ちた。
これでおっかなかわいいボクの迷宮のウサギさんが過剰に怖がれることもあるまい。
これから冒険者の方々とうまくやっていくのなら、イメージは大切である。
サリアちゃん辺りには、どうやってやっつけたのかバレてもおかしくなかったが、こう言っておけば悪いようにはしないと思う。
迷宮のウサギがたった一匹であのモンスターを倒したんだとしたら、その力はウサギさんの可愛さに匹敵する。
そんなもの、とても危険で最強に決まっていたので、なるべく人には言わないようにしよう。
これで問題はすべて解決だ。ウサギさん達よ、後は頼む。
ボクは安心と疲労感で再び意識を失った。
ああ、彼女達にもずいぶん心配をかけてしまって、ウーサー=キングス一生の不覚である。




