ウーサー=キングスとダンジョンの試練
冷静になれば部屋を満たす強烈な獣臭が鼻を突く。
もちろんボクのウサギさんはそんな匂いはしないので、この匂いは先住していた誰かさんの物ということになるだろう。
グロロロロと喉から唸る巨大オオカミは、明らかに今まで出会ったモンスターと格が違う迫力だった。
「……とてもマズイ」
全身の毛穴が開く。
ウサギさん好きの本能がこいつは捕食者だと強烈に訴えて来た。
どうすれば生き残れるか?
きっとボクみたいな子供が普通生き残れるはずもない。
もし生き残る奇跡があるのだとしたら、それは神の奇跡をおいて他にない。
あの鋭い爪がボクの体にカスリでもしたら、ボクは添いの瞬間あの世行きに違いなかった。
覚悟を決めろ、ウーサー=キングス。今ボクは人生の分岐点に立っている。
生きるか死ぬかのデッドラインだ。
もし神がボクと言う人間の人生に試練を与えているのなら、今この瞬間こそがそうなのだろうと確信できるほどの大ピンチだ。
ならば、挑むしかあるまい。なぜならこの贈り物はそのために神々に与えられ。
ボクはそれに応えることを人生の目標としたのだから。
そしていつか神様の前で語るのだ。
ボクはあなたの試練をこうして突破しましたよと、誇らしく。
きっとボクが落ちたのは、ダンジョンにあるとされるボス部屋というものだったのだろう。
飛びぬけて強力なモンスターが一定の割合で発生するのだという。
おおよそ熟練の冒険者がパーティーを組んで、連携して挑むそんな化け物がボスだ。
そしてボクに出来ることは、唯一一つ。
しかしここに来るためにやった小手先だけの準備だけでは到底足りはしないだろう。
もっと、ボクの持っているすべてを使う覚悟がないと、この涎を垂らすオオカミには一瞬だって対抗できないと直感が告げていた。
ボクは“うさキングの書”を開いた。
恐怖で体はカチコチだったが、やってやるという意志だけがボクの行動を助けてくれた。
「……緊急召喚―――」
ボクに呼び出せるすべてのウサギさんを結集させる。
すると本を中心に、真っ白な光が展開し始めた。
光は獣臭漂う巣穴ごとオオカミをまるっと飲み込んで、砂糖の甘い匂いのする白一色の空間を作り出した。
「……やろう、ボクのウサギさん達。徹底抗戦だ」
ボクの呼びかけに応えて、白い空間に無数の真っ黒い穴が開いた。
その数はおそらく、ボクが呼び出せるであろうウサギさんの総数。
勢いよく穴から飛び出したウサギさんの群れは、一斉にオオカミに襲い掛かった。
ウーサー=キングスのとっておき。
全てのウサギさんの集うウサギの巣穴は、うさキングの領域である。




