ウーサー=キングスパーティーを組む
十分な準備を整えるために馬鹿にならないアイテムをそろえたが、それでも確実に安全なんて言えないのが、ダンジョンという場所だった。
地上にいるモンスターは、ダンジョンから溢れ出たモンスターが野生化したものと言われているが、そんなモンスターもダンジョンに囚われていない、浅層のほんの弱いモンスターでしかない。
強いモンスターは、ダンジョンが捕らえて離さない。
ゆえにダンジョンに足を踏み入れた者は、そんな強力なモンスター達の洗礼を受ける。
しかしモンスターに挑む者には神の褒美として、ダンジョンに眠る財宝や力が与えられるのだとか。
まぁ伝え聞くのはこんな感じである。
「じゃあ依頼を確認しよう。今回君がダンジョンに入る護衛。それでいいんだね?」
「……はい。経験を積みたいので」
「なるほど、それならダンジョンはいいよ? 私の剣聖もすごく成長している」
フフンと得意気なサリアちゃんはあれからさらに力を蓄えているようだった。
「わ、私はまだダンジョンには……私でいいんでしょうか?」
リーナさんは一見して自信がまだついていないようだが、町の噂では強敵を次々に撃破する大魔導士らしい大物食いとして名を知らしめている。
「そうなんだ。でもいつかは経験するでしょ大魔導士なら」
「そ、それはそうかも……しれませんけど」
「よしせっかくだから。リーナのレベリングも一緒にやってしまおう? 大丈夫! 私が前に立てばかすり傷一つ付けないさ」
「は、はい……」
対照的な二人だが、いい感じに前には進んでいけそうだった。
今回ボクが選んだのは、草原のダンジョン。
近所の草原にポツンとあるダンジョンである。
中には獣系のモンスターが多く。初心者向けであるという情報である。
「……召喚」
ボクは荷物を持たせたウサギさんを背後に置き、前衛、後衛のウサギさん達でがっちりと周囲を固める陣形である。
広いダンジョンに入り口で軍隊のように進軍して入ると来ていた他の冒険者さん達の注目を集めたがボクに悔いはない。
それよりもっとこの可愛さを見て、宣伝してもらいたいところである。
「すごく見られたね。ちょっと恥ずかしかった」
「わ、私はダイジョブでした。冒険には一緒に行ってますから……」
「堂々としていればいいかな? 私もやっぱり一匹雇おうかなぁ。でもなぁ無理やり連れて行っても怪我させちゃうだけかもだしなぁ。前衛は怪我が多いんだよ」
「あ。それなら。魔法使いのウサギさんを雇えば……いいんじゃないですか?」
「そ、そんなのいるの!?」
「は、はい……私のパーティのウサギさんは使える子もいますからいるんじゃないでしょうか?」
「いいこと聞いた! じゃあパーティー組むかなぁ。やっぱり女の子のメンバー探すかぁ。でも少ないんだよね」
「ああ。それはわかるかも。男の子はウサギさん恥ずかしがるかもですけど」
「……恥ずかしがりませんが?」
「……君はそれはそうだろうな」
「は、恥ずかしがるなら、このギフトは与えられない気がします」
そんなものだろうか? そんなものか。
誇ることはあっても、恥ずかしがることなんてないと思うのだが、それはこれからの働きで証明して、この町に浸透させていけばいい。
それにウサギさんの魅力は、この通り若干ちぐはぐしていたパーティー間の連帯感まで上げることまで証明された。
やはりウサギさんは素晴らしいと思う。
ダンジョンの中は基本的に階段を下り、下層へ下って行く。
この草原のダンジョンもまた、突然草原に出現したスタンダードなダンジョンである。
「上層のモンスターは外にいるモンスターと同じくらいの強さだけど、それでもダンジョンの中では強いから気をつけて」
「そ、そうなんですか?」
「うん。ダンジョンで油断は厳禁だ。私だって何回も危なかったんだから」
そうなんだ。ボクは感心しながらサリアちゃんの話を聞いていた。
やはり何度かアタックしている経験者は違う。
しかしそういうことなら早い段階で先にボクのウサギさん達に先に行ってもらう方が良さそうだった。
「……ボクのウサギさんたちがどれくらい戦えるのか見たいから。まずは戦ってみる」
「そうだね。君のギフトのレベリングが今日の目的だし」
「そ、そうですね。が、頑張ってください」
うん。頑張る。
ボクはウサギさんたちに探索の指示を出した。
5匹ほどぴょんぴょん飛んで散っていったのは、ポーターウサギたちが新たに変化したマッパーウサギさんである。
誰が教えたのか、その名の通りマップを描く技能を備えたウサギさんはボクの目の前で煙になって消えると一匹になって、紙にマップを描き始めた。
「い、今のは何で消えたんです?」
「……見てきた情報を統合したみたい?」
「と、統合って何です?」
「……一つにまとめる感じ」
「「へー」」
わかってないかもしれないけど、深くはボクもわかっていない。
なんでそうなるのか理屈を求められてもきちんと説明できる自信はなかった。
ダンジョンのマップはとても細かく、何度か入っているサリアちゃんも、おおっと声を漏らしていた。
「あ、前に見せてもらったマップとおんなじだ。こっちの方が細かい」
「……じゃあ案内お願いします」
「任せてよ!」
では、とりあえずサリアちゃんにお任せして次の階層の階段目指してボクらは進むとしよう。
ダンジョンの中にはやはりモンスターは多く、すぐに鉢合わせることになった。
ピンと耳を伸ばしたウサギさん、警戒を知らせてくれる。
「……前衛前へ」
出てきたのは、いつか外で出会ったプチボアの上位種、ボア。
体格が人間の倍以上ある猪型のモンスターは冒険者でも気を引き締めるようになってくるようだ。
「だから……ちょうどいい相手だ」
突っ込んでくる予備動作の前にボクのウサギさんが、四方八方からボアに襲い掛かった。
「ピギ!」
攻撃の撤退タイミングは完ぺき、どうしても避けられない場合は、盾で見事に防ぎきる。
つかず離れず危なげのない連携は、前の時よりさらに洗練されていた。
これは雇い主にダンジョン攻略組がいたな。
低層ならノウハウも継承しているとみた。
四足歩行の足を巧みに狙い、倒れたら最後、ボコボコである。
「「す、すごい」」
素直に褒めてもらえて、鼻が高い。
ウーサー=キングス、ダンジョンデビューである。




