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ウーサー=キングスとギルド長

「大変なのねん! 大変なのねん!」


「……どうしたのパパン?」


 大慌てで僕の自室に入ってきたパパンをボクは驚きをもって迎え入れた。


「冒険者ギルドのギルド長が、尋ねていらっしゃるのねん! ウーサーに会いに!」


「……!」


 何がどうなってそんなことに?


 冒険者ギルドのギルド長と言えば、町でも有数の権力者である。


 そんな人が使いもよこさず直接やってくるのはそうあることではないだろう。


 大変混乱しているボクは、とりあえずウサギが入れてくれた紅茶を啜った。


「ウーサー君! 落ち着いている場合じゃないのねん!」


「……大変混乱していますよパパン。一体何でそんなことに?」


「それはパパンにも分からないのねん。でもどうしても君に会いたいらしいのねん」


「……」


 どうしてもと言われるのなら断る理由はない。


 まぁビックリしたけれど、きっと地道な営業の成果である。


 ボクはもう一口紅茶を飲んで、フゥと息を吐いた。


「だから落ち着いている場合じゃないのねん!」


「……覚悟を決めたところですよパパン。お受けしてください」


「そうなのねん!? 今すぐ準備をするのねん!」



 そんなこんなでごたごたと準備が始まる。


 そしてギルド長が尋ねて来たのは次の日の事だった。


「やぁこんにちは。君がウーサー君だね?」


 フットワークが軽すぎる。


 鮮やかな赤い髪に、純白のマントを羽織った麗人は、肩で風を切ってボクの家にやって来た。


 男装の凛とした佇まいの彼女こそ、冒険者ギルド長アリッサ様その人である。


 応接間でソファーに座った彼女は、ボクの目の前で足を組み、値踏みするような視線をこちらに向けていた。


「すまないね突然。どうしても確かめておきたいことがあって、他の者に任せるわけにはいかなかったのだよ」


「……いえ。驚きましたが光栄です」


 アリッサ様はパパンではなく、ボクに話しかけている。


 ならば全力で応えようと、ボクは自ら対応した。


「ありがとう。私の名はアリッサ。冒険者ギルドでギルド長をやっているものだ。それで……噂に聞く新種のギフト保持者君の調子はどうかね? 順調にギフトを育てていると聞いているぞ?」


「……はい。おかげさまでとても順調です」


 ニヤリと微笑まれ、ボクはそう答えた。


 実際にとても順調である。


「……召喚」


 ボクは戯れにウサギを手の中に召喚して見せると、アリッサ様はとても興味深そうに、呼び出したウサギさんを覗き込んでいた。


 そしてその目の輝きは、僕の知っているものだった。


「おお! これが噂のウサギか! 素晴らしい! いや、最近に君の活動は伝え聞いていてね、いろんな店にウサギを貸し出しているのだろう? 冒険者でも雇っている者に話を聞いたが」


「……はい。まだまだウサギさんの魅力を伝えきれていないですが頑張ってます」


 現在ウサギさんを雇ってくれている人はそう多くない。


 やはり見た目のかわいらしさが、頼りなく見えてしまうというのはいかんともしがたいらしい。


 そんなことはないと口で説明するのにも限界はあるし、試してもらうまでにもいっていないのが現状だった。


 しかし目の前の冒険者ギルド長はそうではない様子だった。


「なるほど……面白い。そう、とても面白い試みだと思う。未だかつて無限に労働力を生み出せるギフトなど存在しなかったからな」


「……そうですね。ちなみに無限ではないです」


 あまり盛られても困ってしまうけれど、ウサギさんのポテンシャルに可能性を見いだしてくれたのならとても嬉しい。


「君がそういう心づもりならちょうどいい。実は私から君に提案したいことがある。私はね、君のそのギフトを使った商売をもっと盛り立てたいのだよ」


「……そうなのですか?」


「ああ。君のギフトでもっと沢山のウサギを生み出すことはできるかね?」


 改めてそう尋ねられ、ボクはすぐに肯定した。


「……はい。大丈夫です」


「ほぅ……素晴らしい。ならばもっと大規模に、ウサギを貸し出す商売をする気はないか?」


 アリッサ様は僕にそう告げたので、ボクは快く快諾した。


「……かしこまりました。やりましょう」


「ウーサー君!? 早いのねん!」


 パパン口癖が出ていますよ。


 でも、なんか応援してくれるって言うから。


 ウサギさんに関して、ボクはペットや個人所有の能力とは認められても、市民権が得られるかというと自信がなかった。


 最悪の場合、モンスターを生み出す人扱いされたらどうしようと言う懸念すらあったわけだ。


 それなのに冒険者ギルドのギルド長というと、町の中でも知名度も影響力もある人物。


 ポジティブに認めてもらえるのなら、気が変わらない内に認めてほしい。


「ふむ。詳細も聞かないのは、確かに商人らしくない……いや、年相応と言ったところかな?」


「……いえ。ボクのウサギさんがモンスターではないと、他ならぬ冒険者の方にお墨付きをいただけるのであれば、多くを望みません。その上この土地の助けになると言うのなら願ってもないことです」


「ふむ?……年相応ということでもないのだな」


「?」


「いや。素晴らしい心がけだ、ウーサー君。では私は君に協力しようじゃないか。君のウサギを貸し出す許可を正式に認め、店舗となる建物と土地も提供しよう」


「……そこまでしていただかなくとも父のお店で行っても大丈夫だと思うのですが?」


 まさか土地と建物までもらえるとは思っていなかったボクは驚いたが、アリッサ様はいたって大マジだった。


「いや。もっと大々的に冒険者達にウサギを貸し出してほしいのだ、何かのついでではなくね。この町の他にない売りになるほどにだ」


「……それは、町中をウサギが沢山歩き回っていても良いということですか?」


「その通り。素晴らしい光景だろう? 何よりかわいらしい。まぁ、君のギフトでもあるわけだし可能かどうかの確認をしたかったのだが……問題なさそうなのでね」


 ボクの態度を見て、そういうことが出来そうだと確信したわけか。


 でもそう思ってもらえたことに原因があるとすれば、今までの数多くの実験の賜物だろう。


 ボクは確信を育てた。ならば今花開く時だった。

 

「……やりましょう。素晴らしい光景です」


「ウーサー君!?」


 パパンが驚いている。でもそれは実に素晴らしい光景だった。


「……ふむ。君はずいぶん積極的に協力してくれる気のようだね? 何か裏があるとは思わないのかな?」


 子ども相手にわざわざそういうことを言ってくるのもどうかと思うのだが、優しい人だ。


 しかしボクとしては、提案したくなる気持ちは痛いほどわかるから、仕方のないことだった。


 そしてアリッサ様の目の輝きはボクと同じだったのだ。


「……ウサギさんを愛する者は皆同志です」


「! ふはは、そうか。では君の貢献に期待するとしよう、同志よ!」


「……はい。領主様もウサギの手が借りたい時には是非」


「いいだろう。いや……今日一匹貰って行くことは可能かな?」


「……はい」


 実に話が速いというか、手っ取り早いアリッサ様は、ずいぶん効率重視の方のようだった。


 ただ、差し出したウサギさんを抱きかかえた瞬間の笑顔は決して偽物ではないと確信する。


 かわいいに魅了される心を、ボクは否定出来るわけもない。


 ウーサー=キングス心強い後ろ盾が出来てしまった、驚きの一日である。


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