とある受付嬢は気になっている
「……ウサギが日に日に増えていく」
冒険者ギルドで受付嬢をしているマリーは冒険者ギルドの変化に気が付き始めていた。
やってくる冒険者がかわいらしいウサギを連れ歩いているのである。
最初はトップ冒険者の方々。
最近では、神々に戦闘に優れたギフトをいただけた若手の新人でも有名な女の子たちが、とても可愛らしい変わったウサギをお供として連れているわけだ。
そして……ちらほらと、女性冒険者を中心にその数が増えているのをマリーは知っていた。
「……あのウサギひょっとしなくても、あの子が雇ってくれって言ってきたウサギよね?」
その時は理解できなかったが、冒険者達が連れているところを見ると何か利点があるのかもしれない。
これは早急に事情を調べなければならない。
そう感じたマリーは、仕事を終えた冒険者で、ウサギを連れている女性に、思い切って尋ねてみることにした。
「あの~いいですか? そのウサギってどうしたんでしょうか?」
そう尋ねると、その冒険者は目を輝かせて、ウサギを抱き上げ力説した。
「かわいいでしょう! うちのポーターなんです! 運良くお試しで雇えたんですよー」
「そ、そうなんですか?」
「はい! 今女性冒険者の間で人気なんです! 噂は聞いていたんですけど……この子めちゃくちゃすごいですよ。かわいいですし!」
「すごいんですか?」
「はい! 人間より力が強いのに全然疲れないんですよ。なにより私の言うことをしっかり聞いて指示通りに動いてくれる……かわいい奴なんですうちのモコモコちゃんは!」
「な、名前を付けたんですね」
「いや……かわいくて」
感情が抑えきれなかった冒険者は、いったん床にウサギを下ろして息を吐いた。
まぁ可愛いのはわかるし気持ちはわかるが、あの小さなウサギにそんな利点があるとはちょっと眉唾な話だった。
「一度、このウサギの飼い主? みたいな子供が、ギルドに雇ってくれって売り込みに来たことがあったんですよね……」
「それはぜひやるべきだと思います! だってギルドでウサギが働いてるなんて……かわいいじゃないですか!」
「そうねぇ。ウサギが役立つかわからなかったし、最初は荒っぽい方も多い冒険者のギルドで、小動物なんてかわいそうだなって思ってお断りしたんだけど……役立つっていうなら報告書を上げてみようかしら?」
すでに雇っている? 冒険者もいるようだし個人的にも興味がある。
どこでウサギを雇うことが出来るのか、詳しく教えてもらおうと思っていたマリーは、いきなり肩を掴まれて顔を上げた。
「マリー……面白い話をしているじゃないか」
「……! ギルド長!」
「ああそうだギルド長だよ? あのウサギ……雇えるのかい?」
そう尋ねて来たギルド長の声色には明らかに好奇心の色が見え、マリーは受付嬢の直感で嫌な予感がした。
これはきっと、ギルドが動く。
主に業務員の仕事が大変になる方向に!
マリーは一瞬で未来を予見したが、黒ぶちメガネのずれを直して息を吸う。
雇用主に嘘を吐くことはできない。
ましてウサギの報告なんて、そんなことをする必要なんてまるでない案件だった。




