ウーサー=キングスと大魔導士の悩み
ボクは上機嫌だった。
ウサギさん達に食事を上げられる可能性があるとドキドキしていると、部屋のドアがノックされた。
「……どうぞ」
返事をしたボクに届けられたのは来客の知らせだった。
「失礼いたします。お坊ちゃまを尋ねて坊ちゃまと同年代くらいの冒険者の方がいらっしゃっていますがどういたしましょう?」
「……冒険者? うん、いいよ」
誰かは知らないけれど、冒険者の方とは仲よくしておきたい。
僕と同じくらいの冒険者だと言うのなら、そう危険もないだろうと思う。
メイドさんの案内で客間にやって来たのは、あまり面識のない魔法使いらしい女の子だった。
「ここ来こんにちは! あ、あの本日はお日柄もよく!」
「……落ち着いて? 君はリーナさんだよね?」
ただボクは彼女の事は聞いたことがあった。
冒険者リーナ。
目が隠れるほどに前髪を伸ばした銀髪に褐色の肌は街中で見た記憶もある。
そして彼女もまたすごいギフトを貰ったものとして有名な同世代だ。
あまり主張の強いタイプではないが、両親が魔法使いで本人のギフトが飛び切り強力なこともあって期待のホープの一人だった。
「そ、そうです! わたしリーナです!……その……名前知っててくれたんですね。うぇへへへ……」
「……もちろん。それで今日はどうしましたか?」
「そ、そうでした! 実はギルドでウーサー君がウサギを配っているって聞いて! わ、わたしにもくれないかなって思って……来たんですけど……」
「……ウサギさんを?」
これは同志の予感である。
ウサギさんを愛する者は皆兄弟、少しでもウサギさんの魅力を伝えたいボクとしてはぜひ話を聞いてみたかった。
リーナさんはなぜか気まずそうに、ポツポツと事情を話始めた。
「は、はい……実は私は大魔導士のギフトをいただいたんですが……少々問題があって」
「……問題? 大魔導士に?」
大魔導士は魔法使いのギフトの中でも最高峰の攻撃力を誇る。
使える魔法も高度で、このギフトを貰えることを望む人間は沢山いると思う。
何が問題なのだろうと内心首をかしげていると、リーナさんは肩を落としたまま言った。
「はい……大魔導士が使える魔法は強力なんですけど、詠唱が……長いんです。その間誰かに守ってもらわないとなんですけど」
「……それならパーティーを組めば解決するのでは?」
「そうなんです……そうなんですけどー……えっと……」
「……」
ボクがリーナさんの言葉をしばし待つ。
すると彼女は意を決した様子で勢いよく立ち上がると真っ赤な顔で言った。
「わ、わたし! コミュニケーションが苦手なのです!」
「……なるほど」
それは中々苦労しそうである。
「でも! ウサギさんなら! わたしもやれると! そう思うわけです! だからぜひ!」
どういう意図なのかはだいたいわかった。
しかし前衛を期待されるとちょっと不安があるウサギさんだった。
「……本職の戦士とくらべると全然弱いですよ?」
実際本物の剣聖を目の前で見た後だと、絶対大丈夫と胸は張れない。
しかしリーナさんにはそんなことより重要なことがあるみたいだった。
「最初は弱いモンスターと戦います! 時間稼ぎさえできればいいんです!」
「……確かに練度しだいでどうにかなるかも。なら、うまくいったら契約料は払えますか?」
「え? お金とるんですか?」
予想外だったのか、勢いが弱まるリーナさんに僕は頷いた。
「……最初はタダでいいです。でも長く貸し出す場合はいただこうと考えてます」
召喚数は増えているとはいえ上限はある。
ゆくゆくは商売にしたいと考えていることは伝えておくべきだろう。
現状あまりうまくいっていないリーナさんは大いになやんで、震え声だった。
「うーん……お仕事をした分から出してはダメでしょうか?」
シュンと肩を落としながらそう言うリーナさんにボクは少し考える。
彼女に余裕がないことはわかる。
ただボクとしては本格的な前衛としてウサギさんを貸しだすことにも大いに不安もあった。
うまくいったら長くお付き合いするつもりのようだし、うっかり彼女が死んでしまったりしたら大変である。
気軽にウサギさんと別れる道も残してあげるべきだろう。
だからボクはとある提案を思いついた。
「……あるとき払いで貸してもいいですよ?」
「ほ、本当に!?」
「……はい。その代わりお願いがあります」
「お、お願いですか?」
「……はい。5匹ウサギさんを貸します。その代わりウサギさんの一匹に魔法を教えてくれませんか?」」
ボクの提案をリーナさんは理解できないようだった。
それもそのはず、だって魔法は魔法使い系統のギフトを貰った人間の特権だからである。
「魔法をですか? それは構いませんけど……ウサギって魔法が使えるんですか?」
「……それを試したいんです。実験に付き合ってくれるならお仕事が成功した時に2割でいいです。お仕事をしていない場合は、特に払わなくていいです」
「それって……収入がない時は実質タダってことでよろしいでしょうか?」
「……よろしいですよ?」
「……それでお願いします!」
ガッツリ条件に食いついたリーナさんはボクの手を掴み、また真っ赤になって椅子に座り直した。
「しゅ、しゅみません」
「……いえ。こちらこそウサギさんをよろしくお願いします。前衛として使うのがダメそうなら。遠慮なく言ってください。危ないですから」
ふぅ。いっぱいしゃべってしまった。
やはり、おしゃべりは苦手である。
しかし満足してもらったらしくニヘへと笑うリーナさんとは、今後もうまくやっていきたいウーサー=キングス。大魔導士との出会いである。




