ウーサー=キングスの冒険
フジさんに指導されたウサギさん達は一日ほどで変化が起きた。
「……これは?」
ウサギ(剣士)
ウサギ(弓使い)
ウサギ(槍使い)
ウサギ(斧使い)
ウサギ(盾使い)
「……おー」
ものすごく細かく分類わけが始まってしまった。
あまり積極的に戦わせるつもりなんてなかったけれど、これは身を守るためには戦うことも必要だと言う神様の意志だろうか?
いやでもボクとしては戦わせたりするのはあんまり。
チョットだけ解釈違いなので、戦闘技能以外もどんどん派生させていこうと思った。
でもこの調子なら外に行ってもどうにかなるかもしれない。
ボクは約束が果たせそうだとこっそり胸をなでおろした。
「うん! 冒険日和だ!」
「……おー」
天気は快晴。
お日様がさんさんと降り注ぐ、冒険日和である。
鎧姿のサリアちゃんも太陽に負けず劣らず元気いっぱいであった。
「今日はウーサー君の護衛と私が冒険者ギルドでもらって来たお仕事します! スライムのコア収集です! 私の言うことをよく聞くように!」
「……はーい」
まだ子供なのに仕事を貰えたのは、偏に彼女のギフトが剣聖だからだろう。
近いうちに国からスカウトが来たって何の不思議もない、剣聖はそんなギフトだった。
「約束守ってくれてありがとう。 楽しみにしてたんだ!」
「……うん。じゃあ時間を貰った成果を見せるよ」
「何か準備したの? お昼ご飯?」
「……もちろんお昼もある」
それはともかくボクはウサギさんを召喚する。
ボボンと煙の中から現れたのは、付け焼刃なりに戦う力を備えたウサギたち。
呼び出すと、武器までウサギ仕様に変化してくれるギフトはまさしく贈り物だった。
「……うわぁ……うわぁ!!」
目を輝かせるサリアちゃんは、さっそく一匹のウサギに抱き着く。
沢山出すことで、その可愛さもパレードクラスだった。
「武器持って並んでる?」
「……がんばったので」
ぐっと親指を立てた僕もまたこの仕上がりには満足していた。
「……さぁ行こうよ」
「うん! よし! 私もやる気出て来た!」
ウサギさん軍団の進軍は、まるでピクニックのような和やかさだった。
町の外の街道沿いに、確かにスライムが大量発生していて、周囲に狩りに来ている冒険者たちも、このウサギさんの隊列に興味津々の様だ。
そして堂々と一糸乱れぬこの行進、スライムくらいならどうにかなりそうだと思う。
そんな自信がボクの中にも生まれつつあったのだが、ボクは剣聖に対する世間の期待値をどうやら甘く見ていたようだった。
「……でっかーい」
「おお……よく育ってる」
ボヨヨンと震えるスライムは、とってもビックだった。
人間を1とするなら50はありそうな恐ろしい大きさのスライムはドドンと道に居座って、我が物顔である。
「……これを子供に任せるんだ」
「うーん。いやたぶん私達がここに来るまでに育ったんだと思う。スライムはその気になれば戦士のギフトを持ってれば子供でも倒せるモンスターなんだよ」
「……へー」
しかしこんなものにうっかりツッコンだら、死んじゃいそうだが冒険者の感覚はボクにはわからない。
「剣聖なら多少育ってても楽勝……のはずなんだけど。これは育ちすぎかなぁ」
よく見ればその体には複数のスライムのコアが浮いていて、いくつもの個体が一つになったもののようだった。
「頑張れば……どうにかなりそうだけど、剣がダメになるのはやだなぁ」
「……アレどうにかなるんだね」
ものすごく嫌な顔をしているサリアちゃんの気持ちもわからないではなかった。
スライムの体液は何でも溶かすから、迂闊に手を突っ込めば大変なことになる。
ただ核を潰せれば倒すことが出来るから、その大きさによって難易度は大きく変わるだろう。
討伐証明となる部位は壊れた核なので、この大きさだとスライムまみれは確定かもしれない。
どうしようとボクは考えるが……残念ながら、専門外のボクにはいい案は浮かばなかった。
「……よし。帰ろう」
「まって! もうちょっと考えて!」
「……でも、無理だよ」
ボクのウサギ達の手足では、文字通り手も足も核には届かない。
まぁ、魔法使いでも連れてくるしかないだろうなと思っていたのだがボクは異変を感じ取っていた。
ウサギさん達が落ち着かない。
そしてウサギさん達は耳をピンと立ててビックスライムに向かって足踏みをしていた。
タンタタンとリズミカルな足音は警戒の証―――。
「……まって!」
「え!!」
しかし止める間もなくウサギさん達は動き出す。
ウサギさん達はひるむこともことなく一斉に突撃した。
その突進はボアのごとし。
スライムの中に突っ込み、そして近くのスライムの体を弾き飛ばしてゆく。
当然スライムの体液に触れればダメージを喰らい、一定値を超えるとポカンと煙が出て消えた。
「ウサギちゃんが!?」
「ウサギさんが……」
なんということだろう、悲劇的な光景である。
サリアちゃんも顔面蒼白だった。
「やめて! こんなことをしてほしかったわけじゃないの! ただ私はウサギちゃんたちと楽しく冒険が出来ればそれでよかったの!」
「これは……」
だけど命令もしていないのに戦う姿に覚悟を見たボクは、その時手の中にある“うさキングの書”がボクに語り掛けている気がした。
ボクは書の声に従って、ページを開いた。
「……連続召喚」
呼び声に答え、ポボンとウサギが再び召喚。
そして次々消えたウサギさんを補って、再び突撃してゆく。
「すご!」
「……ゾンビアタック。いや、ウサギの巣穴アタック」
なるほど、ここに召喚ポイントがあるのならこういう戦い方もできるのか。
それはまさに無限に沸き出すウサギさんの波だった。
ウサギさんたちの奮闘で、巨大スライムは見る見るうちにその体積を減らしてゆく。
そして放り投げられた小さな核をポーターウサギが次々に回収していった。
「なにそれ! スライムがどんどん小さくなるよ!?」
「……うちのウサギはすごいのです」
正直に言えばものすごく動揺したがウサギさんの奮闘を無駄にはできない。
それにウサギさん達に新しい可能性を教えられた気分である。
この呆れるほどに有効な戦法なら、何とか削り切れるはず。
しかしまだかなりの大きさがあるっていうのに、サリアちゃんはボクの前に手をかざし前に出た。
「よし……じゃあ私も頑張んないと。あのくらいの大きさなら大丈夫!」
「?」
一刻も早く仕留めなければという気迫を感じボクは慌てた。
そしてサリアちゃんはボクの目の前から消え失せた。
「……?」
いや、消えたとしか思えないスピードで走ったのだ。
ヒュンと鋭い風切り音が聞こえたかと思ったら、ビックスライムは一刀で両断されていた。
不定形の体はもちろん、核も真ん中から綺麗に真っ二つである。
「……」
チンと鞘に剣を収めた音でボクはようやくサリアちゃんの姿を再び見つけられた。
スライムの汁一滴掛かっていない彼女は、一仕事終わった満面の笑みを浮かべていた。
「よしこれで終わり! お弁当持ってきたから、眺めのいい場所で食べようよ!」
パチパチパチとボクは手を叩く。
お見事。これが冒険者の力ということか。
ちょこっと。うちのウサギさんは結構やれるのでは? なんて慢心は木っ端みじんである。
そしてやはりサリアちゃんとは今後も仲よくしたいなと心から思ったウーサー=キングス、身の程を知った、一日である。




