ウーサー=キングスは剣聖に襲撃される
「ねぇ! ウーサー! 一緒に冒険に行かない!?」
「……ボクは冒険者にはならないので」
町のヘッド、剣聖サリアちゃんは最近一つ上のステージに進んでいて、町中の子供たちの羨望の眼差しを浴びていた。
冒険者としてギルドに登録し、すでにモンスターと戦って成果を上げている剣聖サリアの名はすでに町中に轟いていた。
そんな彼女が本日、わざわざ我が家に友人として訪ねてきたわけだが、サリアちゃんのお願いは少々一般市民のボクには荷が重いお願いだった。
「冒険者にならなくても冒険者にウサギ配ってるって聞いたよ!」
「……配ってます」
それはまぁ確かにその通りで、ボクのウサギさんは冒険者の中で今頃頑張っていることだろう。
となるとサリアちゃんがどこで噂を聞き、ここにやって来たのかは簡単なことだった。
「私も欲しい!」
なるほど。そう思うのも無理はない。何せうちのウサギさんである。
サリアちゃんには助けてもらった恩もあるので、頼みを聞くのはやぶさかではない。
「……いいよ?」
ボクは快く了承した。サリアちゃんなら宣伝効果は抜群だろう。
ウサギさんの知名度が上がれば、もっとウサギさん達が町に浸透するはずだった。
「え? いいの!」
「……いいよ。サリアちゃんにも貸したげる」
「それって……何匹までいいの?」
「……とりあえず一匹かな?」
思わぬ返しにそう答えるとサリアちゃんはフムと考えこんで、話が元に戻った。
「よしじゃあ一緒に冒険に行こう!」
「……なんで?」
「そしたら沢山ウサギを連れていけるから!」
なるほど。
ボクが行けばウサギさん使いたい放題というわけだ。
ずるずると引きずられながら、ウーサーは中々策士だなと感心した。
「……でもダメだよ?」
「ええーなんでー」
「……ボク冒険者じゃないから。許可がないと」
「……こっそりいこう!」
「……それはダメ。サリアちゃんももう冒険者なら怒られるだけじゃすまないかも」
「うっ」
ではとボクは考える。
極力サリアちゃんの要望をかなえつつ、ルールの範囲内に収めるにはどうするべきか?
「……じゃあこうしよう。ボクが町の外に出かける護衛の仕事を受けてくれない?」
「うん! 任せてよ!」
即答したサリアちゃんはやはりかなり計算高いんじゃないかとボクはそう思った。
このままだとそのまますぐに町の外まで引きずられそうだったので、ボクはひとまず3日後に行くとだけ約束した。
なんで三日かというと、本当にただの準備期間のつもりである。
冒険というとモンスターの居る危険地帯に入る可能性がある。
サリアちゃんがいくら強いギフトを与えられていると言ってもまだ子供であるのだし、ボクもきちんと用意しておく必要があるだろう。
「……武器を貸していただけないでしょうか?」
そう言う時、頼りになるのは商人のパパンだった。
「ウーサー君。武器なんて何に使うのねん?」
「……はい。ウサギさんたちが使えないか実験したいのです」
「ふーむ。でも武器は危ないから、子供にもたせるのは……」
「……大丈夫。持たせるのはウサギさんです。ボクはもう少し我慢します」
「ふーむ。そうねん? うん。スキルの使い方を学ぶのはよいことなのねん。好きなものを持っていくといいのねん!」
一度決めると、気前のいいパパンである。
用意したのは剣、槍、弓、盾、斧。
それを各5個ずつ用意して、それぞれに持たせてみる。
ウサギさんたちには武器を構えさせてみると、中々雄々しくかわいい。
人間用のちょっと大きめの武器だからたどたどしく構えている姿がキュートである。
素養がありそうな冒険者ウサギさんを召喚してから、簡単な使い方をレクチャー……出来ればよかったんだけど、振り回すだけでは意味がなさそうだった。
「……とりあえず何かやってみて?」
ボクの抽象的な命令に、ピョンピョコ跳ねて武器を振るウサギさんたち。
一応用意してみた的にポコポコぶつけているが、うまく扱えてはいないようだ。
「……フームこれはまずい」
このままポコポコと殴りつけるだけで果たしてうまく学べるものか? ちょっと自信がない。
ひとまずウサギたちにやめるよう指示して、ボクは屋敷の中をうろつくことにした。
一人くらい、武器の扱いに長けた人はいないものか?
たまたま近くにいたメイドさんを捕まえてボクは尋ねてみた。
「それなら……コックのフジさんはどうです?」
「……コックさん?」
「はい。フジさんは昔冒険者をしていたらしいですよ?器用な方ですし、色々な武器の使い方も知っているかもしれません」
なるほど、昔冒険者で今コック、そんな面白経歴の方が身内にいるとは驚きである。
ウーサー=キングス、灯台下暗しな驚きの新鮮な一日だった。




