318:その後のシルトリリチ星系
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
「はぁ~、ようやく今日の業務も終わりですね」
「お疲れ様でございます。ヴィー様」
「お疲れ様。ヴィー」
「お疲れ様っす。ヴィー様」
フナカ本体との戦いが終わってから一年も経ってしまった。
そう、一年だ。
一年間、俺たちはシルトリリチ星系に張り付くことになったのだ。
大昔の誰かが言っていた。
戦争は始めるよりも終わらせる方がはるかに難しい、と。
シルトリリチ星系へ攻め入り、フナカを討ち取った俺たちも、その難しい話にぶち当たったのだ。
「やはり、帝国の他の星系との間に距離がありすぎるのが問題ですね。私たちはサタが居るのでまだやり取りが簡単ですが、サタが居ない場合を考えたら……」
「情報を送るだけでも一苦労だもんなぁ。ここ」
具体的に何があったのかは割愛しよう。
ただ、シルトリリチ星系を治めていた貴族たちは入念な身体検査の後に、その大半が処刑または身分が剝奪されたし、潰れた会社も一つや二つどころではなく、今でも昼夜問わずにインフラ関係の工事が行われている程度には問題だらけだった。
どうやら、シルトリリチ星系と言う場所は、フナカの一件を抜きにしても問題がある場所だったらしい。
そのため、ヴィリジアニラを筆頭として、シルトリリチ星系へやって来た帝国軍はその悉くが仕事に追われている状態である。
タルコットンさんたち有力な貴族がいずれやってくるとの事なので、そうなれば落ち着くだろうが……それまではまだまだ忙しい事だろう。
「それでサタ様。帝国本土に居るフナカの残滓はどうなのですか?」
「地道に潰してはいるらしいが、潰しても潰しても何処かからか湧いてくるそうだ。全部の星系に仕込んでいたんじゃないかとまで言われているな」
そして、フナカ本体を倒したからこその問題も帝国では発生していた。
と言うのも、どうやらフナカは帝国各地に本体から完全に切り離した分体とやらを配していたらしく、本体が居なくなったことで統制されなくなったそいつらが帝国各地で問題を起こしているらしい。
幸いな事に、この分体とやらは育つ前なら普通の人間と身体能力が変わらないし、思考や記憶も引き継いでいないので、必ずしも敵対的とは限らないようだが……いや、九割五分以上は敵対的と言うか犯罪者らしいから、やっぱり問題だな。
なので、帝国ではチラリズム=コンプレークスが何時かに言っていた通りに、総力を挙げて対処をする事になっていた。
もしかしたら、何処かで帝国の手から完全に逃れて、力を蓄えつつある個体も居るのかもしれないが……まあ、そう言うたらればを考えても対処は出来ないから、考えない方がいいな。
「どこもかしこも問題だらけですね」
「まったくだ」
「一年ちょっと前の気楽な状況が懐かしいっすねぇ」
「同意します。ジョハリス様」
俺たちは揃って天を見上げ、フナカと戦う前の状況に思いを馳せる。
「では、その気楽な状況を取り戻すためにも、シルトリリチ星系に隣接する星系の開拓を進めましょうか。メモクシ」
「はい、こちらに該当星系についてのデータが揃っています」
さて、現在シルトリリチ星系では、とある手法で以って、独自に隣接する星系の開拓を進めるプロジェクトが進行している。
これはバニラ宇宙帝国上層部からの許可は得ているものの、助力は一切と言っていいレベルで受けていないものだ。
「ジョハリス」
「それぞれの星系を調査する命知らずたちの情報はこれっすね。それとヤバそうな気配が宙域の何処にあるかまでは観測されているっす」
このプロジェクトが上手くいった場合、シルトリリチ星系は完全にバニラ宇宙帝国から独立し、別の国になる事も決まっている。
そして、その場合には初代女王と言う立場にヴィリジアニラが就くことも決まっている。
「サタ」
「フナカが残してくれたもの……OSの展開維持の補助装置のおかげで、俺のOSは順調に広がっていってる。隣の星系までは完全に範囲に入った。ただまあ、その先については……早くても何十年とかかるだろうから、ヴィーの世代ではお隣までだな」
「はい、分かっています。それで大丈夫です」
そう、別の国だ。
『バニラOS』ではなく、俺の……サタOSが敷かれた新たな宇宙王国。
それが、これから生まれる国だ。
「それよりもですね。よかったのですか? もしも王国が完全に成立してしまえば、サタはこの国から容易に離れる事が叶わなくなります。それも何十年どころではなく、何千年とです」
「先輩……と言っていいのか分からないが、前例があれだけ好き放題やっているんだから、何とかはなるだろ。それに、俺には寿命と言うものが無いみたいだからな。暇にならないためにもちょうどいい」
その国がどんな名前で、どんな国になるかは現状では分からない。
だがまあ、俺が力を貸せる範囲で貸していけば、何とかはなるのではないかと思う。
「それから……」
「それから?」
「あー……ヴィー。俺は婚約者として……いや、伴侶として、お前の隣に立ちたい。お前の為に使う時間は、その先もずっと続く時間を過ごすために欠かせないものになると思う。だから、今も公には婚約者だが……私的にも婚約者になってもらいたい。どうだろうか」
俺はヴィリジアニラの前に跪き、俺の骨から作った指輪を差し出す。
「……」
ヴィリジアニラは震える手で俺の指輪を受け取り……。
「喜んで」
微笑みながら、そう返してくれた。




