315:慢心
本日は四話更新となります。
こちらは二話目です。
『サタ。私は操作に専念しますので、口はサタに任せます』
「上手く情報を探り出せって事だな。分かった」
小惑星の爆発はパワードスーツの俺をエーテルスペースへと一瞬退避させる事で回避。
そして、少しだけ座標をずらしたところに再出現させる。
「そこかぁっ!」
で、再出現した直後にフナカが攻撃を仕掛けてくるわけだが……。
「っ!?」
「何っ!?」
ヴィリジアニラの操作によって、俺は攻撃を紙一重で回避した上で、反撃の拳を叩き込む。
「すぅ……おららららららああっ!?」
「くはっ、はははははっ! そう言う事か!」
一発目の拳を叩き込んだところから、重力制御modによってお互いの位置が離れないように、きちんと踏ん張れるようにした上で、両腕と背中から生える四本の触手による連撃をフナカへと叩き込んでいく。
対するフナカは……笑っている。
殴られている事実などお構いなしと言った様子で笑っている。
拳から伝わってくる感覚にしても、まるでダメージを与えられているような感じがしない。
「あぁっ~。なるほど、理解した。攻撃回避はベントスの墨によって、そもそも俺が正しく世界を認識できていないからか。詳細までは分からないが、巫女の未来視も合わさる事で、一方的に攻撃を仕掛けられると」
「……」
「しかし、未来視の方がよく分からないな。木っ端であっても神である俺以上の未来観測をしている? やはり天然物ではなく養殖か? まあ、そこはもうどうでもいいか。ここで殺せなければ、俺は奴の思惑の外に出る事が決して叶わない訳だしなぁ~」
バレた。
分かってはいたが、やはりフナカのmod知識も相当なものである。
フナカの言う通り、今の俺は大量の墨を周囲にばら撒くと同時に纏ってもいる。
この墨は外部からのmod干渉を無効化すると同時に、内部からのmod干渉によって自在に変色する事が可能となっており、俺自身の体表の色も調整する事で、フナカが俺の事を認識する事を難しくしている。
未来視の方は……俺にも分からないので、返しようがない。
それよりもだ。
「こうして会話をしているのは時間稼ぎの為だな。フナカ」
フナカが落ち着いたのなら、その落ち着きを利用した方がいい。
「バレたか。だが当然の事だろう? 俺の相手をベントスたちに任せて、帝国軍は惑星シルトリリチ1への干渉をしている。それはあの惑星に俺のOSを周囲に展開させている物がある事を察していて、それを排除するためだろうが……はははははっ! 出来るわけがない! ベントスや巫女のような外れ値ならばまだしも、ただの人間が排除できるようにしてあるわけないだろう!?」
「そして、時間が経てば、お前のOS対策が破れ、帝国軍たちは俺の敵に回る。俺たちが一気に打ち倒せるだけの火力を持たない以上、俺たちを殺すのはそれからでいい、と」
「そう言う事だなぁ。仲間であるはずの帝国軍に追われ、削られると言う不和。それを俺が見逃すわけにはいかない。例え、それが奴の想定範囲内で、そう言う状況になったら別の仕掛けが作動するであろう事が予測できたとしてもだぁっ」
フナカの言葉は……一般的なレベルに限っては正しい話だろう。
普通の帝国軍ならば、フナカOSを維持展開している何かに干渉し、無力化することなど叶わない。
俺がフナカならば、力押しでは解除できないようにした上で、搦手についても人間では対処しきれないように仕込むからだ。
「その慢心が命取りになるとは思わなかったか?」
「は?」
だが、今回シルトリリチ星系に来ているのは普通の帝国軍ではなく、精鋭の帝国軍だ。
そして、精鋭の帝国軍とは……その命と引き換えにしても、任務を果たして見せるプロフェッショナルであり、帝国内に現れた敵性宇宙怪獣に対処してきた人間でもある。
それこそ俺が敵対する事は何としてでも避けたいと判断してきた集団でもあるのだ。
そんな帝国軍であるならばだ。
やってみせる。
「っ!?」
不意にフナカが惑星シルトリリチ1がある方を向く。
恐らくだが、何層もある防御体制の内の幾つかが破られたら、フナカの元へと連絡が来るようになっていたのだろう。
フナカがそっぽを向くと言う反応と合わせれば、帝国軍が犠牲を出しながらも、フナカOSの守りをフナカが想定していないレベルで撃ち破ったという事も分かる。
で、このタイミングで撃ち破る事を想定出来ているとすればただ一人。
ヴィリジアニラだ。
ヴィリジアニラは俺の体を操り、そっぽを向いていたフナカへと完全な奇襲を仕掛けていた。
勿論、フナカにしてみれば、これまでにも散々受けてきた攻撃であり、警戒の必要性などないと考えているのだろうけども……。
改めて告げよう。
「だから、その慢心が命取りだ」
「!?」
フナカの顔面に俺の腕が突き刺さる。
そして、突き刺さった腕からフナカの体内へと毒が流し込まれる。
対フナカOS専用で、おまけにこの場での戦闘が始まってから調整も施した代物。
「ーーーーーーーー~~~~~~~~~~!!」
フナカが声にならない叫び声を上げ、周囲に衝撃波を放ち、俺は吹き飛ばされる。
その顔に浮かぶのは笑み。
けれど、穴と言う穴から血を噴き出して、周囲の宇宙空間に血を漂わせていく。
「ひぎっ、びぎっ。ひひびっ、やってくれたなぁ……あひっ、俺の内側が、あぁ~いい不和を奏でてくれている。これで出元が俺の不養生だったなら最高だったのによぉ……ぎひっ、ひびひひひ……。おまけに星系に張っていた方のOSの破壊までされたか……びひっ、確かにこれは俺の慢心だなぁ……」
「……」
毒は確実に効いた。
シルトリリチ星系に展開されていたフナカOSも帝国軍が何とかしてくれたのだろう、急速に薄れて、『バニラOS』に上書きされていく。
後はボロボロになったフナカにトドメを刺せばそれで終わりのはずなのだけれども……まだ何かありそうな気配がしている。
「でも、お前たちだって慢心しだなぁ……」
『サタ!』
「分かってる!」
俺はフナカへトドメを刺すべく飛び込み、右腕はフナカの胸を貫いて、追加の毒も注入する。
そして、その直後の事だった。
『何時、俺の本体が矮小な人間如きと同じ姿だと言った』
空間を引き裂くように、俺の本体よりも一回り大きな、巨大な赤海月が姿を現したのは。




