313:致命的バグボンバー
「す、凄まじい破壊力っすね……」
「総質量11g、13種類の物体の混合物に、17のmodを特定の順番かつ特定の物体にかけるように付与し、19の工程を踏む。すると事象破綻が起きて、惑星を吹き飛ばすレベルの上にムラがあるエネルギーが放出される。セイリョー社を過去一番悩ませた検査対象。社内通称……『致命的バグボンバー』、使ったのは俺も初めてだったんだが、うん、ヤバいな」
マントル内に存在していた惑星砲ごとバラバラに引き裂かれた惑星がシルトリリチ星系の方々に向かって飛び散っていく。
ジョハリスは『シェイクボーダー』を巧みに操ってそれを避けているが、他の宇宙船は……まあ、帝国側の戦艦は大丈夫そうだな、冷静に対処している。
逆にシルトリリチ星系側の戦艦は悲惨なもので、飛び散った地殻などによってシールドを割られ、本体も潰され、次々に爆発していっている。
「ですが、サタのおかげで惑星砲は粉砕されました。この隙に次の行動を取るべきですね」
「ヴィー様。船外カメラの映像をお出しします」
「お願いします」
さて、今回俺が『致命的バグボンバー』と言う危険物を出したのには、幾つか理由がある。
一つ目の理由としては惑星砲を早急かつ確実に破壊する必要があったから。
二つ目の理由としては事象破綻と言う現象を引き起こしたかったから。
三つ目の理由としては惑星を破壊する手段をこちらも有している事を示したかったから。
一つ目があったからこそ使う選択肢が生まれ、使ったからこそのメリットが二つ目と三つ目だが、使った以上は可能な限り活用するべきだろう。
だから、ヴィリジアニラが船外カメラで周囲の状況を確認し、俺の本体もシルトリリチ星系全体を確認する。
「「見つけた」」
そして俺とヴィリジアニラは同時に見つけた。
致命的事象破綻に伴って生じた莫大な量のエネルギー、その大半は惑星と惑星砲を破壊するのに用いられたが、その一部は事象破綻と言うmod同士の不和である事を利用されて、星系内の二か所に非破壊的な形になって吸い寄せられている。
片方は惑星シルトリリチ1の地表のとある場所、恐らくはフナカOSを展開維持するのに利用されている施設。
もう片方は小惑星帯の一角、無数にある小惑星の一つに立っている人影……つまりはフナカが居る場所。
「ドラグスターク様。敵重要拠点の位置を把握しました。対処のほどよろしくお願いします」
『分かりました。ヴィリジアニラ様は?』
「私たちはフナカを討伐します。危険ですので、周囲には近づかないように」
『了解いたしました』
ヴィリジアニラからドラグスタークへ、ドラグスタークから艦隊の各艦へと指示が伝わる。
そうして指示が伝わると、帝国軍の戦艦は残ったシルトリリチ側の船を牽制するものと、地上の施設の制圧と破壊を行う部隊に分かれて、動き出す。
フナカOSによる干渉を防ぐmodは全ての艦が装備しているし、地上戦を行う部隊なら隊員レベルで配備されているが、それは絶対のものでは無いし、効果時間も限られている。
なので間に合うかどうかは彼らの頑張り次第という事になるだろう。
「サタ」
「分かってる」
対する俺たちも行動開始。
『シェイクボーダー』をエーテルスペースへと移動し、ヴィリジアニラたちは素早く動いて、パワードスーツの俺を動かすためのコクピットに着席、起動。
と同時に、俺はパワードスーツの俺をフナカのすぐ近くに出現させる。
「ああぁぁっ~~! イイッ!! 素晴らしい! トレビアン!! これほどに素晴らしい味の不和は早々味わえるようなものでは無い!! これを行ったのは明らかに泥浚いのベントスではあるのだけれども、それが分かっていてもなお! いや、分かっているからこそ吸わずにはいられなイッ!!」
パワードスーツの俺がすぐ近くに居るにも関わらず、フナカは事象破綻によって生じたエネルギーを吸い込むことに夢中になっていた。
その表情は歓喜と言う他ないものであり、両腕を大きく広げて、貪るようにエネルギーをそのまま吸い込んでいっている。
この光景を見ると思わされる。
人に似た姿をしていても、フナカは間違いなく人間ではない。
そして、惑星を爆破するほどの事象破綻と言うのはフナカにとって格好の餌であり、自分の存在を星系内に留めるためのものだと理解していてもなお抗えないほどに魅力的なのだと。
「ああそうかい。だったら代金として、その命を払え」
「!?」
そんなフナカを俺は全力で殴り飛ばす。
自動反撃らしい分解は対策済みなので効果なし。
殴った感触は以前と変わらず。
殴り飛ばされたフナカは近くにある別の小惑星に衝突し、小惑星にクレーターが出来るが……フナカ自身へのダメージは殆どなさそうだな。
「ああ、もう来たのか。ベントスに巫女。もう少しこの不和を味わっていたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。拠点を失う事になるが……なんだ?」
だが、このままここで戦うのは良くないと判断したのだろう。
フナカは転移をしようとして……何も起きない。
当然だ。
「ん? んんんんん? 何故転移が出来ない? なんだこの空間の繋がりの不和は?」
「見様見真似だったが成功したみたいだな」
「成功? 馬鹿な。ベントスの策程度、俺の力量ならば無理やりにでも……まさか!?」
「悪いが、シルトリリチ星系とその外、そこに広がっている『バニラOS』とフナカOSに干渉と言うか、リクエストさせてもらった。ちょっと前にバニラシド星系で起こったのと同じ、超光速航行封じをな」
「!?」
『バニラOS』へ正規ルートで干渉して、超光速航行を行えない範囲を設定したのだから。
これをフナカが破れる可能性はない。
なにせ、干渉そのものをしているのは俺ではなくチラリズム=コンプレークスなのだから。
ただ、干渉のリクエストが出しているのは俺なので……。
「さて、食い逃げを許す気はないんでな。くたばれ」
「……。なるほどぉ、つまり、生き残りたければ、ベントスを倒せと。そう言う事か」
俺が負ければ、フナカも逃げ出せる。
そう言うシンプルな状態でもある。
06/14誤字訂正




