312:開戦
『予定通り、ですな』
そう、確かに帝国側の艦隊は、シルトリリチ星系側の艦隊からブラスターmodによる斉射を受けた。
放たれた光線は艦隊を貫き、そのまま飛び続けて消える。
しかし、それだけだった。
『ええ、予定通りです』
『まったく、ヴィリジアニラ様に感謝ですな』
『そのまま行っていたらどうなっていた事か……』
本来なら見えるはずのシールドmodとブラスターmodの衝突が見えない。
本来なら起こるはずの爆発が起きない。
本来なら即座に来るべき反撃が来ない。
判断能力が正常ならば、異常であると即座に認識し、対処する事も出来たであろう程の異変が起きていた。
だが、フナカによって正常な思考能力を奪われているためか、シルトリリチ星系側の艦隊はブラスターmodを撃ち続ける。
「では、斉射」
そんなシルトリリチ星系側の艦隊に向けて、全く別の方向から無数のブラスターmodが浴びせかけられる。
シールドmodが粉砕され、船体が粉砕され、幾つもの爆発が起きる。
シルトリリチ星系側の艦隊は攻撃を受けて、対処しようと反応が早いものから動き出し……動き出したものから順に集中攻撃を受けて、何も出来ないままに落とされていく。
それはシルトリリチ星系側が帝国側にやろうとしていたことを、そっくりそのまま返されたかのような光景だった。
さて、そろそろ種明かしといこう。
と言っても、そんな難しいことはしていない。
「上手くいきましたね。とは言え、あんなシンプルなデコイにこれほど簡単に引っ掛かるのは少々想定外でもありますが」
「ヴィー様。お気を付けください。あまりにも対応が弱いです」
策の一つ目は本来の突入地点にデコイを出す事。
艦隊の総力と俺の墨も利用して作られたデコイは、光学的な感知手段だけでなく、mod利用による感知も誤魔化すため、対処できなかったようだ。
「超光速航行はたった数秒、ハイパースペースから出る時間がズレただけでも、まったく別の場所に出るっす。普段ならガイドビーコンの効果でそんなことは無いんすけどね」
「まあ、戦術として利用するには、普通だと各個撃破されそうなくらいにバラけるから、練度の高い、この艦隊でないと無理な技ではあるな」
策の二つ目はハイパースペースの脱出タイミングを適切にずらし、出方も調整したこと。
結果、帝国側の艦隊は相手の総攻撃を回避した上で、最大火力を相手に叩き込めた。
なお、言うは易し、行うは難しと言う奴で、機械知性の力を借りてもなお困難な行いなのだが……『タマイマゼカワ』たちは難なくこなして見せた。
ちなみにだが、出る場所を誤魔化すためのmodも当然ながら利用している。
帝国軍の精鋭専用かつ最新製の隠蔽modであるらしい。
「さて……」
そうして二つの策が嵌まった結果。
既にシルトリリチ星系側の艦隊は壊滅状態と言ってもいい状態に陥っている。
フナカも統制を諦めたらしく、宙賊の宇宙船などは逃亡準備に入っているくらいだ。
だが同時に思う。
フナカほどの存在が、この程度の状況を想定していないものだろうかと。
そして、そんな俺の思考が正しいことを示すように、ヴィリジアニラが一度限りの強制指令権を行使しつつ叫ぶ。
「指令! 回避A!!」
即座に『シェイクボーダー』含め、帝国側の艦隊が亜光速航行に入り、回避行動を取る。
直後、シルトリリチ星系内に存在している惑星の一つから光が放たれて……。
『『『!?』』』
「なるほど。こっちが本命だったか」
大爆発が起きる。
巻き込まれた船が敵味方関係なしに分解され、分解された船を元手に更なる爆発が起きる。
間違いなく、フナカ自身の力も利用した攻撃だ。
「ふぅ……サタ、助かりました」
「ああ。間に合ってよかった」
『シェイクボーダー』は無事だ。
ヴィリジアニラの目で安全地帯が分かっている上に、エーテルスペースへの避難も間に合ったからだ。
「メモ。被害状況は?」
「こちら側の被害は……総数の5%ほどが落とされたものと思われます。敵方はほぼ壊滅ですね」
「そうですか。事前に脅威があると分かっていてなおこれとは……本当に厄介ですね」
『シェイクボーダー』がエーテルスペースからリアルスペースに戻る。
他の帝国側の戦艦は……メモクシの報告通りだな。
相手の攻撃の性質上、無事か消滅かの二通りしかないし、攻撃を避け切れるかは運次第なので、仕方がないか。
「攻撃の起点は……この惑星っすね。地中に砲の本体があるみたいで、地殻の内側を高速移動しているみたいっす」
ジョハリスの言葉と共にモニターに映像が映し出される。
「ある種の惑星砲。吹き飛ばす地殻をそのまま分解して、最初の攻撃の為のエネルギーにしていると言うわけですね。サタ」
「そう言う事だな。これは俺たちが対処するべきものだと思う」
「私も同意見です。手段も選んではいられないですね」
そこに映っているのは、地殻が吹き飛ばされて、その下で対流しているマントルが勢いよく噴き出しているように見える惑星。
数秒前には、その吹き飛んだ地殻を塞ぐように巨大な目のようなものがあったそうだが、それは既にマントル内を移動して、地殻の裏側に隠れてしまったようだ。
詳しい仕組みなどは不明だが、恐ろしく強力な事だけは確かな兵器が、次の攻撃の為に動き出しているのは間違いなく、早急に対処する必要があるだろう。
「だな。フナカの位置もまだ分かっていない。だから、ぶち込むのはこれだ」
なので俺はセイリョー社で知った、組み合わせてはいけない組み合わせにしたmodを惑星の内側に転移で飛ばした。
結果、発生した事象破綻によって莫大な量のエネルギーが放出され、マントル内を泳ぐ惑星砲ごと、その惑星は爆散した。




