308:事件解決の褒賞
「ヴィリジアニラ様。この度は当艦隊を襲っていた怪事件の解決、誠にありがとうございます。船員一同に代わって、御礼を申し上げさせていただきます」
「ありがとうございます、ドラグスターク様。しかし、私が行ったことはそう多くはありません。事件解決に至ったのは、サタたちと兵の方々の活躍があっての事です」
「ご謙遜を。当船以外にあった増殖装置のおおよその位置を探り出したのはヴィリジアニラ様だと言うのに」
帝国兵の増殖事件は解決した。
異相空間にとてつもない数の虫型宇宙怪獣が生息しているのが判明した、などと言う別の問題は発生してしまったが、それの解決は俺たちがやる事ではない。
と言うより、そもそもあの虫型宇宙怪獣が人間に対して攻撃的な宇宙怪獣かも不明だからな。
手を出すべきじゃない。
閑話休題。
と言うわけで、俺たちは事件解決を受けてドラグスタークが面会を求めて来たので、艦長室と思しき場所で話をする事になった。
話を主にするのは当然ながらヴィリジアニラ。
なので、俺、メモクシ、ジョハリスの三人は、ヴィリジアニラの背後で静かに立って、話を聞いている。
これが現状である。
「ふふふ。それを言うならドラグスターク様もでは? 私の偽者が変じた宇宙怪獣モドキの討伐に当たって、随分と活躍されたと聞きましたが」
「ああ、あれこそ部下たち、それとサタ様の活躍があってこそのものです。私はサタ様が提供してくれた墨を麻酔弾の要領で使う事を許可しただけです。褒めるべき相手は私ではなく、部下たち、それにサタ様でしょう」
「ふふふ、そうですか」
また、同時に発生していた偽ヴィリジアニラAが変身した宇宙怪獣モドキの討伐も既に終わっている。
こちらについては、ドラグスタークの言葉通り、俺の対策modを積んだ墨を、シールド貫通modを入れた弾丸の中に注入し、それを撃ち込むことによって、宇宙怪獣モドキが体を維持するのに用いていたmodを無効化。
そこから一気に攻め立てる事で、そのまま仕留めたそうだ。
ちなみに偽ヴィリジアニラたちが乗っていた船に隠されていた人造人間製造装置だが、こちらでも虫型宇宙怪獣や増殖に関わるmodが見つかっていたりする。
だが、俺たちについては、オリジナルからデータを取ったのではなく、外部からのデータ入力によって作られていたらしく、それであの雑さだったらしい。
「さて、褒賞ではありませんが、今回の事件を受けてヴィリジアニラ様に渡すものがございます」
「渡すものですか」
どうやらお互いに褒め合うのは此処までらしい。
ドラグスタークとヴィリジアニラの雰囲気が変わる。
「こちらがそうですね」
「送信専用の情報端末ですか。詳細を窺っても?」
「もちろん」
ドラグスタークが取り出したのは、手のひらの内側に収まるような大きさの機械。
外見から窺う限りでは、ボタンは三つくらいしか付いていないし、後あるのはマイクと情報の送信用アンテナぐらいだろうか。
とてもシンプルな造りだ。
「まず、今回の件でヴィリジアニラ様は類希なる事態解決能力を我らに見せてくださいました。サタ様たちの能力についても同様。となれば、これから重大にして困難な任務を控えている我々としては、ヴィリジアニラ様たちの能力を最大限生かす方法はどのようなものなのかを考えない訳にはいきません」
「……」
「同時に、今回の件で我々の行動が任務のターゲットであるシルトリリチ星系側にバレている事がほぼ確実になりました。我々の現在地や正確な到着位置までは探り出せないと信じたいところですが、目標がバレているのなら、それを逆手に取って対策をすることは必定。つまり、待ち伏せが確実にあります」
「……」
ああなるほど、ドラグスタークがヴィリジアニラに何をさせたいのかが分かった。
確かにそれはヴィリジアニラにしか出来ない事だろうし、頼まれれば嫌とは言わないだろう。
「ヴィリジアニラ様。こちらの端末は、当艦隊に対して一度だけ最上位の命令権を行使する事が可能とするものです。貴方には、待ち伏せの中でも最も問題となる、一撃で艦隊が全滅するような不意打ちを警戒していただきたい」
そして、フナカならそれはやれるだろう。
具体的にどのような手段を取ってくるかまでは分からないが、俺たちがやってくると分かっていて備えていないなんてことはあり得ない。
「……。分かりました。お引き受けしましょう。ただ、一度だけなのですね」
「一度だけです。申し訳ありませんが、無制限の命令権を委譲してしまうのは、流石に問題がありますので。ただ、代わりと言っては何ですが、艦長同士の会議にヴィリジアニラ様も参加できるように取り計らいました。なので、そちらでの話し合い次第では、そちらの端末を使わずとも、我々の行動に干渉する事は可能です」
「なるほど、分かりました。ではそのように」
ちなみにだが、フナカがシルトリリチ星系に居ない可能性は考えなくてもいい。
居なければ、楽……かはともかく、簡単に制圧が出来て、フナカ自身には由来しない技術や情報面で相手を大きく削れるからだ。
「では、シルトリリチ星系到着まで、残り六日。決戦に備えて英気を養っていただけると助かります」
「そうですね。そうさせていただきます。ではこれで」
「はい。ではこれで」
そうしてヴィリジアニラは一度だけの命令権を得て、俺たちは艦長室を後にした。




