306:徹底分解と調査
「では、一先ずはこの医療用ポッドについて、徹底的に調べましょうか。サタ、メモ、ジョハリス」
「分かった。俺は薬液と……さっきの虫だな」
「ポッドにインストールされているソフトを調べます。特別な何かが入っている可能性は高いはずなので」
「ハード面はウチっすね。どれぐらいの時間で生成できるのかは知らないっすけど、ソフトとmodだけでこなせる範囲とは思えないっすしねー」
ヴィリジアニラの指示に従って俺たちは医療用ポッドを調べ始める。
なお、俺たちが動き出すと共に責任者であろう医者が必死の抵抗を見せ始めたのだが、拘束していた帝国兵によって注射を二本ほど素早く撃ち込まれ、強制的に黙らされている。
たぶんだが、睡眠薬の類と俺の墨だろう。
フナカなら、自分の手の者が捕まりそうになったら、そいつを宇宙怪獣にするくらいの事はするだろうし、それへの対策と考えれば当然の事だな。
「解析完了しました。特別な手順で起動した場合にのみ使われるソフトがありますね。人造人間の製造を
制御するのに用いられるソフトのようですが……敵ながら素晴らしいですね。それと、通常の履歴には残らないようにされた記録が幾つかありますね。内容のデコードを開始しますが……ほぼ間違いなく、帝国兵の増殖関係かと」
まず解析が終わったのはメモクシ。
まあ、予想通りの内容ばかりだな。
ただ、こうしてフナカの手が入った装置があるのなら……他にも色々と探し出すべき資料はありそうだし、メモクシは忙しいことになりそうだ。
「えーと、仕様書と見比べた限り、これとこれとこれが余分な装置っすね。ああ、これもっすか。サタ、無力化措置をお願いしていいっすか。これにmodが含まれているなら、これを起点に宇宙怪獣を出してくるかもしれないっす」
「分かった。墨を出しておく」
続けてジョハリスが一通り出し終わったようだ。
隙間に隠されていたもの、素知らぬ顔で追加されていたもの、埋め込まれていたもの、色々とあったようだが、無核のスライム種であるジョハリスがその体と知識を生かして探り出し、回収していく。
で、念のためにフナカが干渉出来なくなる程度に俺の墨でmod無効化をしておく。
どういう風に無効化したのかは後でレポートにしておくので、解析に困ることは無いだろう。
で、取り出されたものは……たぶんだが、細胞分裂の促進とか、メモクシが見つけたソフトの効果を出力するためのハード部分とか、そんな感じだろうか。
しかしまあ、何処に隠していたんだと言うぐらいに出てくるな。
「ふむふむ……」
ヴィリジアニラは……なんか情報端末を見ながら頷いているな。
たぶん何かやってる。
まあ、帝国兵の増殖に関わる装置がここだけにあるとは限らないし、それを考えれば妥当な動きか。
「サタ。そちらはどうですか?」
「とりあえず医療用ポッドに使われる薬液に、人造人間の製造装置にしか使わないようなmodが幾つか含まれているのは確定。ジョハリスが取り出した部品たちについても同様だな。だから、この医療用ポッドが帝国兵の増殖に関わっている事は間違いないと思う」
「ひいては、あそこで寝かされている医者がフナカ側なのも確定ですか」
「そう見ていいと思う。まあ、フナカにとってはどうでもいい駒だろうけど」
俺がやっていたmodの解析は……まあ、分かり易い部分については問題なく終わったので、普通に報告する。
しかしまあ、いっそ芸術的と言ってもいいmodではあるな。
普通の人造人間製造装置よりも圧倒的に早く、それでいて目に見えるような不具合を出さないのだから、今後の調査で何も問題が無いのなら、色々なところで流用されてもおかしくはなさそうな感じだ。
まあ、フナカが関わっていると言う時点で、かなーり怪しいmodなのだが。
「虫のような宇宙怪獣についてはどうですか?」
「うーん、OSを見ている限り、エーテルスペース、マガツキの空間、そのどちらとも違う独自の異相空間は持っていて、それを利用する事で転移をしていたみたいだな。後は人の意識とか意思とか……その辺に干渉するような何かは持っていそうではあるかな……」
「フナカとの関係性は?」
「OSからは読み取れない。たぶん、マガツキの元と同じで、天然の宇宙怪獣。そして、一種一体の宇宙怪獣ではないから……異相空間にヤバい数が居そうだな」
虫型宇宙怪獣については……天然物ではありそうだ。
フナカとの関係性は分からないが、何かしらの方法で協力関係を結ぶに至ったか、フナカがその生態を研究して利用したか……まあ、そのどっちかではありそうだな。
「あ、この箱が宇宙怪獣が入ってた奴っすね」
「ふむふむ。あー、なるほど。『バニラOS』以外のOSの反応が外に漏れないようにする箱なんだな。となると、この箱と同じ技術がマガツキの件とかでも使われていた事になるか」
と、ここでジョハリスが追加で何か見つけたらしい。
俺が握り潰した虫型宇宙怪獣を入れられそうなサイズの箱だな。
ちょっと調べたら、OS遮断とでも言うべきmodが入っていたので、これで『異水鏡』から隠れていたのだろう。
うん、今後の為にも、このmodについては後で研究しておこう。
「それにしてもヤバい数ですか……サタ。観察などは?」
「もうちょっと待ってくれ。エーテルスペースに入り込まれたらとんでもないことになりそうだから、きちんと準備を整えてからにしたい」
「分かりました」
さて、後は虫型宇宙怪獣がどんなものであるかだが……。
エーテルスペースからリアルスペースを覗く要領で、少し覗いてみるか。
フナムシ型宇宙怪獣「ちなみに握り潰された私は丁寧に拭われた後に保管用のボックスに入れられた。貴重な資料だから当然だな」




