304:増殖への対抗策
「さて、一通りは調べる事が出来ましたね」
俺たちに付けられた八人の帝国兵がいつの間にか九人になっていた。
そんな異常事態が発生したため、ヴィリジアニラはとりあえずドラグスタークに連絡をすると共に、この事態の調査と対処をする許可を求め、それは認められた。
「ただ、だからこその問題がこれから先にはあるはずですが」
ヴィリジアニラの視線が増殖した帝国兵へと向けられる。
その帝国兵は赤毛で普通の顔つきの男性であり、特に変わった部分は見受けられない。
そして、俺の目で見る限りでは、全く同一の姿をした男性が隣に立っている。
二人は揃って、どうしたものか、と言わんばかりの顔をしていて、非常に居心地が悪そうだ。
まあ、その気持ちは分からなくもないが。
「サタ。検査結果は口頭ではなく、メッセージでお願いします。メモクシも同様に」
「分かった」
「かしこまりました」
「な、公表しないのですか。ヴィリジアニラ様」
ヴィリジアニラの言葉に、九人の中では一番階級が高いであろう帝国兵が声を上げる。
「公表しないのではなく、出来ないのです。私たちでも反応が遅れた辺り、今回の件には敵の首魁であるフナカが関わっている可能性が高い。そして、フナカが関わったと思しき事件の中には、こちらが犯人に気づいたと感づかれた瞬間に犯人が宇宙怪獣モドキへと変貌した事件があります。もしも百人を超す偽者が一斉に宇宙怪獣モドキとなれば、それがどれほどの被害を及ぼすか……分からないとは言わせませんよ」
「……。申し訳ありませんでした」
が、ヴィリジアニラの説明を受けて、直ぐに頭を下げた。
実際まあ、フナカなら出来そうだから困りものなんだよな。
どうにも、これまでの案件を見ている限り、事前の仕込みさえ出来ていれば、仕込んだ相手を基にした宇宙怪獣モドキを何時でも生み出せるのがフナカだ。
同時に生み出せる数などは分からないが、そこの楽観視は決して出来ないだろう。
なので、こちらが本物と偽物の判別を付けたなら……その瞬間に仕掛けてくる事だろう。
ニリアニポッツ星系の件と本人の言動からして、何かしらの感知能力持ちなのも確かだしな。
「さて……」
と言うわけで、俺は口では何も言わず、何ならこの場に居る俺は身動き一つせず、本体の方でレポートを作成して、ヴィリジアニラへの情報端末へと解析結果を送る。
メモクシも同様だ。
メモクシの方の結果は分からないが……俺の方で得られた情報は色々とあるので、ヴィリジアニラなら、そこから読み取れる事は色々とあるだろう。
「ふむふむ」
俺は解析結果を思い出す。
まず、増殖したタイミングは、俺が気付く数分前。
増殖元になった兵士がトイレの為に席を外したところ、トイレの中で本人も気づかない内に増殖。
そして、トイレの外へ出て来て、俺が違和感を持ったところで判明したようだ。
で、増殖の前後で空間跳躍関係のmodが働いたのは、念入りに精査をする事で分かった。
だが、超光速航行中であることもあって、何処から飛んできたのかや、何処へ飛んで行ったのかは分からなかった。
なので、増殖の出元が艦隊内にあるのか、艦隊と並行するように動いている何かなのか、定位置にある何かなのか……そう言う事は分からなかった。
最後に判別だが……こちらは舌によるmod感知ならば見分けがついた。
構成modを読み取る限り、片方は普通の人間で、常用しているmodも一般的なものだった。
もう片方は人造人間であり、人造人間を製造するに当たって用いられるmodが幾つも感知出来た。
とは言え、艦隊内にあるような設備で気づくのは厳しそうな程度には、普通の人間そっくりな造りでもあったが。
で、ある意味ではこれが一番の問題なのだが。
フナカは確実に関与している。
これは直接フナカに接触したことがある俺だから言える事なのだが、なんと言うか、modの構成内容にフナカだからこその癖が窺えたのだ。
この辺、言語化しづらいと言うか理論化しづらい部分なのだが、modの構成には案外個人の癖と言うものが出ていて、どうにも、その癖がフナカっぽい感じなのだ。
そんなわけで、ヴィリジアニラの懸念と警戒は正解と言える事だろう。
「なるほど。ひとまずは二人とも隔離措置でお願いします」
「かしこまりました」
ヴィリジアニラはメッセージを読み終えたようだ。
増殖した二人は他の帝国兵に連れていかれる形で部屋から去っていく。
「サタ。数は足りますか?」
「何とか。むしろ欲しいのは時間だな。即効性を持たせる必要がある」
「なるほど」
幸いにして対抗策はある。
ヘーキョモーリュ及び俺特製のmodを使えば、それで増殖した方からフナカの影響を排除する事が出来る。
与え方としては注射か食事か……まあとりあえず、一斉かつ速攻で決めて、フナカが何かをする余地を与えないようにすればいい。
そうして、フナカの影響さえ排除すれば、後は極めて精密に作られただけの人造人間でしかないので、排除する必要すらないだろう。
問題は……開発の時間が足りるかどうかだなぁ……本体で必死に作っている最中だが、うーん。
「では完成したら、教えてください。私はドラグスターク様と交渉して、一斉に投与できるようにします」
「分かった」
まあ、頑張るしかないな。
このままだと何時爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものなのだし。




