302:偽者騒動
「なるほど。こうなれば、幾つかの事柄について、逆に問わなければいけませんね。ドラグスターク様。貴方は本物なのですか?」
ヴィリジアニラが真剣な表情でドラグスタークに問いかける。
と同時に、俺とジョハリスは何があってもいいように身構える。
メモクシは……何処かと通信をしているように思えるな。
「少なくとも、当艦所属の機械知性が判断する限りでは私は本物です。偽者も現状では発生していませんし、体に妙なものが仕込まれている形跡もありません。ですが、機械知性の目が届かないところで、思考も記憶も完全にコピーされた精巧な偽者とすり替えられた可能性までは……残念ながら否定できませんね」
「……」
ドラグスタークに動揺や嘘を吐いている様子は見られない。
そして、ドラグスタークの言葉は……実行されていたら、ヴィリジアニラとドラグスタークが以前からの知り合いでもない限りは見破る事は不可能だろう。
おまけに、シブラスミス星系での弾圧派がやっていたことを考えると、懸念事項の実行は技術的には可能だ。
疑惑を晴らすためには、偽者発生の原因を探り出す他ないだろう。
いや、場合によっては原因を探り出してもなお、かもしれない。
ヴィリジアニラが困るのも分かるくらいには厄介な話だ。
「ドラグスターク様……いえ、艦内の人間については、いったん置いておきましょう。二重三重の相互監視をして、怪しい挙動を取れないようにすればいい」
「ええそうですね。私もそう思って、現状はそうしています」
ただまあ、ヴィリジアニラの目が反応していない事を考えると、ドラグスタークは大丈夫、少なくとも直ぐに致命的な行動を取るようなことは無いのだと思う。
「では確認したいことの二つ目です。ドラグスターク様、貴方は私たちについては多少ですが警戒を緩めているように感じます。現状を考えると、即座に独居房に入れるくらいの対応はしてもよいのでは?」
「なるほど。真っ当な疑問ですね。それに対する答えは単純です。貴方たちがそうやって警戒しているから、信頼できる方だと判断したのです」
「……」
ドラグスタークが情報端末を改めて操作し、これまでの二組についての情報をモニターに映す。
そこに映っていたのは……。
『ーーーーーーー!』
「ああなるほど。さっきの映像は捕らえられたからではなく……」
「最初からそうだった訳っすかぁ……」
偽ヴィリジアニラAが『タマイマゼカワ』にやって来てから、居丈高に喚き散らし、そのあまりにもな態度から兵士によって捕らえられて、個室に叩き込まれるまでの映像だった。
また、偽ヴィリジアニラBにしても、物静かを通り越してボウっとしていると言うか……なんと言うか、挙動の一つ一つが無意味に遅く、なので最終的に偽者と判断され、穏やかに個室送りになったようだ。
「私を含め『タマイマゼカワ』の船員はヴィリジアニラ様を伝聞でしか知りません。中には名前すら聞いたことが無いものも居るでしょう。しかし、皇帝陛下の一族に連なる者に要求されるものの一端は理解しています。なので、こちらの事を警戒しないばかりか、相応しくない言動ばかりならば、流石に偽者と分かります」
「……。それだけではありませんね」
「分かりますか。ええそうです。実を言えば、もっと分かり易いのは従者の方々ですね。サタ様、メモクシ様、ジョハリス様、いずれも特殊な方なので、偽者の方でも完璧には用意できなかったようです。なので、実を言えば、捕らえた後の判別は容易でした」
ドラグスターク曰く。
俺の偽者はただの人造人間で、ハーブは遠慮なくかつ普通に出したし、そのハーブは違法薬物だったらしい。
メモクシの偽者は違法な機械知性で、偽造されたID持ちだったのが確認された。
ジョハリスの偽者は有核で、この時点でもう無核のジョハリスの真似を出来ていない。
と言うわけで、本当に判別は楽だったそうだ。
「少なくとも貴方たちは即座に偽者であると断言できる存在ではない。真偽については……事態が解決してからでいいでしょう。もしかしたら、もう何組かヴィリジアニラ様が訪ねてくるかもしれませんので」
「それはあまり考えたくない展開ですね……」
しかし、こうなってくると少し疑問があるな。
『タマイマゼカワ』を含む、この艦隊は、現在ハイパースペース内を航行中だが、使っている航路は通常のものでは無いし、公にされた行動でもない。
そんなところへ偽者を合流させられたのはフナカの技術によるものだと思うが、それにしては偽者の質が低すぎるような気がする。
どう言う事だ?
いやそれとも、皇帝陛下たちと同じようにフナカも計算をして……いや、それにしたって、やっぱり偽者の質がなぁ……。
しかも、帝国兵の偽者の質は悪くなさそうなのに、なんで俺たちの偽者だけ質が……なんかおかしい気がするな。
「そう言うわけですので、ヴィリジアニラ様。貴方にはこの事態の解決の為に協力をしてもらいたい。そして、監視と協力の為に帝国兵を付けさせていただきます。よろしいですね?」
「かしこまりました。お互いに妙な事をしないように監視しつつ、元凶を探りましょう」
「お願いします。やはり貴方は信頼できそうだ」
とりあえず、この辺は後で話しておこう。
まあ、ヴィリジアニラも疑問に思っているところだろうけども、念のためにと言う奴だ。
06/03誤字訂正




