301:『タマイマゼカワ』
「ヴィリジアニラ様、それにお付きの方々も、こちらへどうぞ。司令の下へと案内させていただきます」
「お願いいたします」
『タマイマゼカワ』では何か問題が起きているらしい。
なので俺たちは、警戒しながら案内の帝国兵に従って、戦艦の奥へと向かう。
俺たちが今居る戦艦『タマイマゼカワ』はとても巨大な宇宙船であり、その大きさは俺の本体とさほど変わらないほどである。
それほどまでに巨大なので、『シェイクボーダー』が着陸したドックの内部には、『シェイクボーダー』以外にも小型の宇宙船を何隻も収容されているし、修理には十分な設備が揃っている。
うん、分かってはいたが、『タマイマゼカワ』は移動可能なコロニーに十分な武装を積んだ、一つの街みたいなものだな。
「流石に時間がかかりますね」
「はい。着艦の際に御覧いただいた通り、当船は非常に巨大です。なので、移動するだけでもそれなりに時間がかかります」
だが『タマイマゼカワ』は街ではない。
だから、子供は見かけないし、船内の各区域へ移動するには専用のトラムを用いなければならないように制限も掛かっているし、不審な人間が居ないかどうか目を光らせている者も居る。
警備の厳重度がまるで別……いや、少しだが厳重過ぎる気もするな。
やっぱり、ヴィリジアニラの言う通り、何か起きてはいそうだ。
「こちらです。ヴィリジアニラ様をお連れ致しました!」
「分かった」
と、移動する事暫く。
ようやく目的地に到着したようだ。
通された部屋は……微妙に狭い部屋で、俺たち四人が入っても問題はないが、微妙に圧迫感を感じるな。
そして、妙に扉が分厚いし……換気扇口なんかも妙に厳重だな。
で、部屋の中には先ほど通信越しにヴィリジアニラに挨拶をしたドラグスタークと言う名前の人物が座って待っている。
その雰囲気は妙に張り詰めている感じだ。
まるで、何かあれば、相打ちになる事も辞さないと言わんばかりの雰囲気だ。
「では改めてご挨拶を」
「ええ、そうですな」
ヴィリジアニラとドラグスタークが挨拶を交わす。
そして俺たちも名乗る。
「そうですか。皇帝陛下の指示でこちらへ。実にありがたい話です。今回の捕縛対象には公爵が含まれている。陛下の勅許がある時点で、本来ならば公爵位も意味を為さないのですが、それでも爵位優先で従おうとする人間は居ますから、そう言う人物を抑えられるのは心強い」
「そう言っていただけると幸いです」
ドラグスタークはヴィリジアニラの地位の高さを喜んでいるように思える。
ただどうにも、何かを隠していると言うか、何と言うか……。
「それでドラグスターク様。この船では何があったのですか? 貴方様も含め、異常に警戒をしているように感じますが」
「……。分かりますか」
「ええ。任務地に赴いている途上と言う事を加味しても、何も無いにしては過度な警戒をしているように感じます。そして、私の目は艦内に何かしらの脅威がある事を感じ取っています」
「……」
うーん、俺でも分かるくらいにはドラグスタークは悩んでいる。
名乗りからして、この人は伯爵位の人なんだが……その割には表情が素直に出ているように思えるな。
あるいは隠すほどの余裕がないのか?
なんにせよ、此処で迂闊な事は出来ないな。
待つしかない。
「ヴィリジアニラ様。貴方の従者……いえ、婚約者であるサタ様は宇宙怪獣であると伺っています。そして、特殊なハーブ類を持っているとも。それをここでお出しいただくことは可能ですか?」
「サタ」
「出すことは可能だが、提供なら断らせてもらうぞ。俺のハーブは摂取するとブラスターmodの使用に影響を及ぼす。一般人相手ならともかく、何時何処でブラスターmodを使う事になるか分からない軍人相手に出すわけにはいかない」
「……。なるほど。少なくとも、これまでのとは違うらしい」
ん? なんだかドラグスタークから少し気が抜けた感じだな。
「ヴィリジアニラ様。単刀直入に申し上げましょう。貴方がたは三組目です」
「? ……。はい?」
ドラグスタークの言葉にヴィリジアニラが首を傾げ、滅多に聞かないような声を漏らす。
対するドラグスタークは自前の情報端末に何かしらの映像を映し出す。
そこに映っていたのは……。
『許せない。許せない。許せない! 私は皇女なのよ! 皇帝陛下の娘なのよ! そんな私をこんな薄暗い独居房に押し込むだなんて絶対に許せない!!』
地団駄を踏みながら声を張り上げ続けるヴィリジアニラ。
『……』
それから、ボーっとしながら天井を見つめ続けているヴィリジアニラだった。
「えーと、これは……」
「見ていただいた通りです。今からおよそ24時間前と12時間前にヴィリジアニラの名前を名乗る不審人物が当艦隊に合流してきたのです。ああ、従者の方々についてはこちらですね」
そして、見た目は俺たちに似ているのだが、微妙に挙動などが違う俺、メモクシ、ジョハリスがそれぞれ二人ずつ映っていた。
「そして、厄介な事ですが……貴方たち以外にも偽者は発生しています。ええ、同じ顔とIDの兵士が、何組か発生しているのですよ。此処『タマイマゼカワ』では」
「……」
とりあえず元凶がフナカである事だけは間違いない。
それだけは断言できる事だった。
06/02誤字訂正




