299:『シェイクボーダー』
「超光速航行開始したっす。指示書からのズレは完全になし。これで駄目なら……指示した誰かの責任っすね。それと船名の変更も完了。こちらも指示通りに、『シェイクボーダー』に変更したっす」
「ありがとうございます。ジョハリス」
『カーニバルヴァイパー』改め『シェイクボーダー』は、帝星バニラシドととあるガイドコロニーの中間点に移動すると、ハイパースペースに移動。
それから超光速航行を始めた。
ジョハリスの言葉通り、これはメモクシの下に届いた皇帝陛下からのメッセージに従った形である。
「しかし、場所、角度、速度、時間、その他諸々全部指示通りにした上で、ガイドなしに超光速航行か……改めて言っても、普通の……と言うか、真っ当な頭から出される指示じゃないな」
本来ならば、今のバニラシド星系では超光速航行は行えないはずだった。
が、メッセージの指示した通りの場所と時間に限っては、何故か超光速航行が行えるようになっていた。
こんな事を出来る存在は……まあ、超光速航行を出来ないようにした誰か、つまりは創造主……チラリズム=コンプレークスぐらいだろう。
つまり、メモクシに送られてきたメッセージの出元も、皇帝陛下を間に介しているだけで、創造主なのだろう。
と、俺は思っているのだが……。
「そうですね。ただ、極めて複雑な計算と操作が必要なだけなので、皇帝陛下とグレートマザーなら、これくらいの指示は出せると思います」
「え?」
「可能です。超光速航行不可のエリアに穴を開けるのは、流石に創造主様にしか出来ないでしょうが」
「そ、そうなのか……」
一応、人間業の範疇らしい。
超光速航行の性質と宇宙の広さを考えると、ほぼほぼ見当違いの場所に出てしまうはずなのだけれど……何とかなってしまうらしい。
「コホン。それよりもです。改めて状況を確認しましょう」
と、ここでヴィリジアニラが一度咳払いをしてから、話を進める。
「私たちはメッセージに従ってバニラシド星系を脱出しました。これで帝星バニラシドでの面倒事は避けられるでしょう。また、この手段での脱出なら、極一部の人間にしか行方は知られないはずなので、だいたいの追跡と監視から逃れたはずです。これでもまだ追えるものが居るとしたら……それはフナカと創造主様くらいでしょう」
まずは現状。
確かにフナカとチラリズム以外でこちらを追えるものはいない事だろう。
「メッセージ通りなら、一週間後に私たちはシルトリリチ星系へと向かう帝国軍艦隊とハイパースペース内でランデブーする事になります」
「上手くいくと良いんすけど……あ、ウチの方は完璧にやったっすよ。少なくとも検知可能なレベルの誤差は無いっす」
続けてこれから。
あちらも予定通りに事を進めてくれているのなら、俺たちは一週間後にハイパースペースから出ることなく、シルトリリチ星系へと向かう帝国軍の艦隊……それも数十隻の船からなる、大型の艦隊と合流する事になるらしい。
しかし、ハイパースペースで合流か……。
ハイパースペースを航行中の船に干渉する方法は、宙賊たちや宇宙怪獣ブラックフォールシャークなどを思い浮かべれば分かるように、普通に存在している。
だが前者は大量の船が通ると分かっている場所で待ち伏せして、後者はハイパースペースの専門家と言っても過言ではない宇宙怪獣である。
普通の宇宙船同士が、事前メッセージで示し合わせただけで合流すると言うのは……ガイドコロニーの案内無しで目的地まで超光速航行する以上の難易度になるだろう。
うん、俺でも分かるくらいには難しい。
「そうして無事に合流できたのなら、そのままシルトリリチ星系へと向かいます。目標はフナカの殺害、それとシルトリリチ星系の調査と……必要なら制圧と統治まで仕事に入るそうです。なお、合流後については目標は提示されていますが、それ以上はないので、どう動くかは現場で都度判断する事になるでしょう」
「なるほど。この仕事にヴィーが関わるのは、フナカへの対処もあるが、制圧と統治に当たって、皇族関係者が居た方が都合がいいとか、そう言う話か」
「そうですね。そう言う理由もあると思います」
で、合流するのが仕事ではなく、合流してからが仕事か。
フナカが相手となると……まあ、今現在造り終わっているmodを総動員するだけじゃ足りないだろうし、急いで必要なmodを追加で作らないといけないな。
「それでサタ。サタの本体もエーテルスペースで移動するように指示が出ていましたが、そちらはどうですか?」
「ああ、あれか。移動は既に終わってる。たぶんだが、シルトリリチ星系の直ぐ近くに出られるようになっているな。追加の指示もあるし……たぶん、先制攻撃をさせるつもりなんだと思う」
「そうですか。では、準備のほどお願いします」
「分かった」
なお、これはヴィリジアニラたちを不安にさせるので言わない事だが。
俺はエーテルスペースの動かし方などの秘密を誰かに話した覚えはない。
感覚的なものであるし、俺にとっては命に関わる話でもあるからだ。
それなのに正確な指示なんて出せる辺りに、俺は創造主の関与を疑わずにはいられない訳である。
と言うか、他に書ける存在が居ると思えない。
他にも色々と届いているし。
まあ、なんにせよだ。
「では、ランデブーまでの一週間。ランデブー後の移動にかかる一週間。合わせて二週間、準備を進めつつ、英気を養うとしましょう」
「分かった」
「了解っす」
「かしこまりました」
しばらくはmod開発に専念する事になりそうだ。




