291:超光速技術に異常あり
「つまりこう言う事ですか」
『帝星バニラシド同時多発襲撃事件』と名付けられた、フナカ及び宇宙怪獣シュウとの戦闘、それに宇宙卵への対処を終えてから、二日ほど経った。
この二日間、俺は本体の治療に専念し、ヴィリジアニラたちは事情聴取や復興作業に関わりつつも、準備が整い次第、帝星バニラシドから離れるべく、『カーニバルヴァイパー』の準備も進めていた。
で、許可などが下りたのでようやく出航出来ると思ったのだが……。
「現在のバニラシド星系とその周囲では、事件の影響と未知の要因によって空間に不具合が生じており、亜光速航行ならばともかく超光速航行は行えない。状況が落ち着くには一か月ほどかかる。だから、帝星バニラシド内で業務に従事して欲しい、と」
「そう言う事です。残念ながら、皇帝陛下の権力をもってしても、これはどうにもならない事なので、諦めて大人しくしつつ、自分にこなせる事をしていなさい。ヴィー」
「……」
どうやら、超光速航行に関係するmodの運用がバニラシド星系とその周囲で出来なくなっているらしい。
これは非常に珍しい事と言うか、俺が知る限りでは歴史上一度も起きていない異常事態だ。
そして、この現象を母親から伝えられたヴィリジアニラは非常に渋い顔をしている。
こちらも珍しい事だ。
「分かりました。大人しくしています」
「ええそうですね。そうしておいてください」
とりあえずヴィリジアニラの母親ではどうにもならないという事で、俺たちは揃ってヴィリジアニラの部屋に戻って、今後どうするかを話すことにした。
「サタ。サタの力でも脱出は不可能ですか?」
「ちょっと待ってくれ……駄目だな。セイリョー社にもヒラトラツグミ星系にも跳べない感じだ。バニラシド星系内なら問題なく飛べるんだが。えーと、modと言うかOSの異常からして、フナカではなく創造主様の仕業っぽいな」
「そうですか」
まずヴィリジアニラが確認したのは、俺のエーテルスペース経由でなら別の星系に跳べるかどうか。
結果はノー。
『バニラOS』に何かあったようで、それの影響で色々とおかしくなっているようだ。
俺のOS及びエーテルスペースには影響はないが、リアルスペースの座標やらなにやらは『バニラOS』準拠なので……修正しないと、何処に吹っ飛ばされるか分かったもんじゃないな。
とは言え、やったのがフナカではなくチラリズム=コンプレークスなので、この異常状態の間にフナカが暗躍して……と言う事はたぶん考えなくても大丈夫だろう。
俺がそう信じたいだけかもしれないが。
「宇宙卵関係で何かあったんすかね?」
「かもしれませんね。ただ、そうであっても、メモたちに出来る事は何もないわけですが」
うーん、もしかして宇宙卵を適切な形で孵化させることによって、チラリズム=コンプレークスの代わりになるような宇宙怪獣を生み出そうとしている?
で、その影響で今の異常事態が起きている?
普通にありそうな話なのが困りどころだな。
まあ、分からないし、干渉できない事をこれ以上考えても仕方がないな。
「ですのでヴィー様。メモたちが何をするかを前向きに考えましょう」
「そうですね。幸いにして、帝星バニラシド出航と同時にキャンセルするつもりだった予定が幾つもありますから、それを処理していく事で時間を潰しましょう」
「シンクゥビリムゾ王子についてはどうするっすか?」
「この二日間で調べたところ、あの王子の派閥に属している無能または害悪連中は、『帝星バニラシド同時多発襲撃事件』の一件でその大半が駆逐されたようです。なので、超光速航行関係が復旧するまで、煩わされることは無いでしょう」
ヴィリジアニラのキャンセルするつもりだった予定と言うのはだ。
俺の転移先の確保。
ヴィリジアニラの飲食店や工場への視察。
バニラシド帝国大学でのヴィリジアニラの講演。
だったな。
シンクゥビリムゾ王子とその周辺からの妨害も無いと言うのなら……まあ、受ける余裕はあるか。
「順番はどうなっているんだ?」
「まずはサタの転移先の確保ですね。場所はゲートコロニーの一つ、シブラスミス星系行きのものの近くで、表向き……と言うよりは普段は倉庫として使う事になるコロニーの奥の方に、サタが目印になるものを置くことが許可されたようです」
「なるほど。じゃあ、さっさと行ってきた方が?」
「いえ、何もない状態がどうなっているのか、本当に安全なのかと言った事を確かめるために、私たちも行きます。出発時刻は……」
「予定では二日後です。ヴィー様」
「そう、分かったわ」
とりあえず二日後には俺の転移先を確保して、いざと言う時の避難場所を確保するようだ。
とは言え、安全性と言う意味では、基本的にはセイリョー社に跳んだ方が安全だろうけど。
「さて、視察の方は事件の被害を受けている場所もあるでしょうし、少し計画を練り直しましょうか。サタ、メモ、ジョハリス。手伝ってくれるかしら」
「分かった」
「かしこまりました」
「了解っす」
まあ、地道に一つずつこなしていくとしよう。
今はそう言う状況だ。




