286:対応開始
「よし! まずは対処の第一陣!」
『……。把握しました。では早速!』
ヴィリジアニラが宇宙怪獣シュウ相手に時間を稼ぎ続けること一分。
まずは最悪の状況を防ぐためのmodが完成。
俺はすぐさまパワードスーツの方へとそれを適用すると、急造した仕様書を読み込んだヴィリジアニラは俺が望んだとおりに動いてくれる。
『一つ目、射出します』
パワードスーツの俺の手から放たれたのは、ヘーキョモーリュの球根をすり潰したもの、俺の墨、そして特製modを付与した上で固化した球体。
その球体が宇宙空間に放たれ、暫く進んだところで周囲の惑星バニラシドP3との相対的な位置が固定される。
「「「!?」」」
「何が起きた? 正常な流れが乱された」
効果は劇的なものだった。
球体の近くに居た宇宙怪獣シュウの内、球体の状態であったものは黒ずんでいくと共に砕け散っていき、動きを止める。
魚のような姿をしていた者たちも動きを鈍らせ、目に見えて動きが遅くなる。
だが何よりも大きいのは、事象破綻が発生しなくなり、爆発したくても出来なくなった点だろう。
そして、この動きはフナカにとっても想定外だったようだ。
宇宙怪獣シュウに混ざっているフナカの指示にも、動揺が見えた。
「二つ目、三つ目、四つ目……」
『ヴィー様。三つ目以降を何処へ射出するかのマップを出します』
『お願いします。メモ』
だからその動揺へ付け込むように、俺は次々に事象破綻封じの墨球を作り出していき、メモクシの指示に従ってヴィリジアニラがそれを所定の場所へと投下していく。
そうして数を増やしていくと墨球の効果範囲はやがて檻のように広がっていくが……。
『『異水鏡』の反応を見る限り、球体の効果範囲外へと逃げ出そうとする動きが早速あるっす。急ぐっすよ。ヴィー様、サタ』
「分かってる。これで十個目。そして、問題はないはずだ」
そう簡単には封じきれないようだ。
フナカの指示込みでも宇宙怪獣シュウは墨球の範囲内へは踏み入ろうとしないが、自己判断でここで閉じ込められるのはまずいと判断したのだろう。
逃げ出そうとする個体が居る。
また、宇宙船を基に増殖し始めた連中まで抑えるには手が足りない。
こればかりは俺たちだけでは手数不足でどうにもならない部分だ。
『ヤバいっす! 逃げられ……』
「ミゼオン博士と帝国軍が手を打っていないはずが無い」
だから、抑えきれなかった個体が、俺が作りだそうとしている核を閉じ込める檻の外へと逃げ出して……直後に帝星バニラシドの方から飛んできた何かによって撃ち抜かれ、事象破綻による爆発を起こすことも無く消失。
そして、その現象は二度三度どころではなく続いていく。
『え、ええ……ミゼオン博士はともかく、帝国軍が手を打つのが早過ぎないっすか?』
『ミゼオン博士からメッセージがありました。偶々、惑星バニラシドP3方面に向けられていた実弾砲があり、偶々、その砲弾にサタ様のmodを基にした改良modを搭載するのが簡単に出来たそうです』
「『『……』』」
メモクシの言葉は何処かの創造主が関わっている事を匂わせるようなものだが……俺たちは賢明なので黙っておく。
それにミゼオン博士から送られてきた仕様書通りならば、帝星バニラシド及び周囲のコロニーからこちらに向かって行われている支援攻撃は宇宙怪獣シュウを倒せる代わりに、直撃させなければ効果が無いようなので……。
宇宙船を基に増殖している連中は任せられるが、核から増えている連中については俺たちで対応するしかないようだ。
『サタ』
「分かってる。宇宙怪獣シュウとその核を完全に破壊するためのmodについてはもう出来上がる」
まあ、俺たちが困る事ではないので、好意的に捉えよう。
まず宇宙怪獣シュウに対抗するためのmodは出来上がった。
適用した上で攻撃を当てれば、宇宙怪獣シュウは事象破綻を起こせなくなった上で死ぬ。
今の宇宙怪獣シュウはエネルギー生命体のような状態なので、文字通りに跡形もなく消える事だろう。
『ヴィー様。次のポイントでラストですが、如何しますか?』
『……。敢えて開けます。完全に封じてしまうと、相手の行動が読めなくなりますので。ですのでサタ』
「分かった。範囲を調整して、筒状に範囲を広げていく感じにする」
次に閉じ込めもほぼ完了。
ヴィリジアニラは完全に閉じ込められた宇宙怪獣シュウが強行突破を試みることを警戒したのか、敢えて完全に閉じず、迎撃する方針を取るようだ。
ならば、それをサポートできるように、俺は動くべきだろう。
『サタ。宇宙怪獣シュウの形状から考えて、筒状よりも曲がりくねらせたり、ネズミ返しを付けることをおススメするっす。データを送るっす』
「そうなのか? じゃあ、そうするか」
で、その迎撃場所の形状をジョハリスの言葉に合わせる形で調整。
どうやら『異水鏡』で宇宙怪獣シュウの動きを見続けていたことで、ジョハリスは宇宙怪獣シュウの遊泳能力を把握して、それを生かせないが、墨球の範囲を突っ切る気にはなれないと言うような形を考えてくれたらしい。
「よし出来た。適応するぞ」
『ヴィー様。間もなく宇宙怪獣シュウたちが来るっす』
『ヴィー様。仮に討ち漏らしても、帝国軍が控えていますので、ご安心ください』
『……。はい』
と、ここで対宇宙怪獣シュウ用のmodが完成し、適用。
パワードスーツの俺の四肢と触手の先が纏う墨の色が、黒から青緑色……ヴィリジアニラの目が纏う燐光にそっくりの色に変化する。
「突破せよ! 突破せよ!! お前たちの怨みを晴らすのだ!!」
「「「許すな! 許すな!! 我を屠った人間を許すな!! 根絶やしにするのだ!!」」」
『では、行きます!』
そして、ヴィリジアニラが操るパワードスーツの俺は、墨球の迷路を抜けて速度を大きく落とした宇宙怪獣シュウの群れへと殴りかかった。
05/19誤字訂正




