284:サンプル回収
「まずはサンプルを回収するぞ。それとメモクシ」
『はい』
「適当な場所に極小サイズのゲートを開けておくから、それを使って帝星バニラシドに連絡をしてくれ。俺が得た情報から何かを察したり作ったりするのは、あちらの方が早いかもしれない」
『かしこまりました。安全な専用窓口を開いていただけるなら、ヴィー様の視覚用のゲートに相乗りする必要もなくなりますので、助かります』
まず手始めに、帝星バニラシドのバニラゲンルート子爵邸に繋がる形で極小のゲートを温室内に設置。
そのゲートを介す形でメモクシが此処までの情報を帝星バニラシドへと伝える。
伝える情報の中には迂闊に帝星バニラシドから宇宙船で離れようとすれば、宇宙怪獣シュウに襲われて食われる旨も入っているので、これで一気に被害が広がる事は避けられるだろう。
『サタ。宇宙怪獣シュウはエネルギー体っすよ。そんなものをどうやって……』
「対プラズマとか、対ブラスターとかで使うような確保用modを応用すれば、何とかはなるはずだ。両手の手のひらに展開しておく」
『分かりました』
続けてヴィリジアニラの視界用ゲートも展開。
合わせてパワードスーツの俺の両手に確保用modを展開。
現状の宇宙怪獣シュウは魚の形になっているものでも1メートルに満たない程度の大きさしかないので、これでも何とかなるはずだ。
『行きます!』
ヴィリジアニラがパワードスーツの俺を操って、群れを成している宇宙怪獣シュウへと突っ込んでいく。
対する宇宙怪獣シュウは……こちらも魚の形になっている個体たちが突っ込んでくる。
そうして先頭の宇宙怪獣シュウと俺の手のひらが接触し……。
「まずっ!?」
『!?』
一気に光を増す宇宙怪獣シュウの姿に、俺は咄嗟にヴィリジアニラの視界用ゲートを閉じた。
直後、爆発。
パワードスーツの俺の外殻が粉砕され……そこへ続けて何十と言う宇宙怪獣シュウが突っ込んできて、パワードスーツの俺と周囲にある惑星バニラシドP3の地殻を消し飛ばす。
『サタ。助かりました』
「予め備えておいて正解だったな……っ!?」
本体が持つ吸盤の一つが焼けている。
どうやら、フナカが振るっていたマガツキの状態ほどではないが、宇宙怪獣シュウもパワードスーツの俺を介して本体にまで影響を及ぼせるようだ。
『これ、本当に回収できるんすか……?』
「確保用modの調整をした。重力制御とmod無効化も応用して、非接触かつ即時の不活性化も入れたから、理論上はこれで行けるはずだ」
『ヴィー様。こちらが使い方のようです』
『分かりました。これなら行けます。ジョハリス、周囲100メートルほどで構いませんから、『異水鏡』のデータもお願いします。今は少しでも情報が欲しいので』
『……。分かったっす。こうなりゃあ、やれるだけやってやるっすよ』
さて、これでまた宇宙怪獣シュウの力が増したことになる。
量と質のどちらが増すかは分からないが、そう何度も失敗していられない事だけは確かだろう。
「次の俺をエーテルスペースから出すぞ。3……2……1……GO!」
『行きます!』
次のパワードスーツの俺をエーテルスペースから出す。
直後、宇宙怪獣シュウの内、魚の形になっている個体が一斉に俺の方を向き、突っ込んでくる。
その動きに俺は一瞬、エーテルスペースに人形を戻すことを考えて……。
『大丈夫です。サタ』
「は?」
その一瞬の間に、俺の体なのに、俺の体とは思えないような挙動で以って、パワードスーツの俺は突っ込んでくる宇宙怪獣シュウの群れを切り抜けた上に、一匹の宇宙怪獣シュウを手の内に収めていた。
『見えている上に自由自在に動く体があるのなら、この程度は何とかなります』
「アッハイ」
背後で自分に衝突した宇宙怪獣シュウが共食いをするかのように爆発しあう。
その光景を尻目にヴィリジアニラ操るパワードスーツの俺は距離を取りつつ、確保した宇宙怪獣シュウを隔離した上でエーテルスペースへと移送。
即座に解析を始めると共に、解析結果をメモクシ経由で随時帝星バニラシドへと送る。
これで向こうの状況次第だが、上手くいけば何かしらの対処方法を考え始めてくれるだろう。
『それでサタ。解析はどれぐらいかかりそうですか?』
「……。一時間は待って欲しい。どうにも、宇宙怪獣シュウのOSだけじゃなくて、フナカが干渉した痕跡なのか、不純物と言うか、罠のようなものが仕掛けられている感じだ」
『罠ですか。踏むとどうなりますか?』
「分からないが……碌でもなさそうな気配はしてる。爆発したり、宇宙怪獣にされたりって訳ではなさそうだが」
また、俺自身でも解析は始める。
メーグリニア、マガツキ、シュウ・スーメレェ、宇宙怪獣モドキたちと色々と見てきてはいるので、その宇宙怪獣の純度100%のOSなら解析は簡単に出来るが……どうにも発生させる際にフナカが何かをしていたようで、対策なしに解析するとそのまま精神汚染されて、負の感情を増大させられるような仕掛けが施されているようだ。
なので俺はそちらの対策をした上で、メモクシ経由で帝星バニラシドへの警告を送りつつ、解析を進めていく。
「ヴィー。悪いが解析終了まで、宇宙怪獣シュウを抑え込める範囲で抑え込んでくれ」
『分かりました。やれるだけやってみます』
とりあえず、緊急の解析と反映の第一弾完了。
パワードスーツの俺の両手両足、ついでに背中の触手に墨を纏わせて、接触した宇宙怪獣シュウを爆発させずにダメージを与えられるようにした。
『宇宙怪獣シュウ、来るっす!』
ヴィリジアニラに操られた俺が、迫りくる宇宙怪獣シュウへと、殴りかかった。




