280:感情爆発 ※
本話はヴィー視点となっております。
ご注意ください。
「サタ。温室へ」
「分かった」
私の言葉に応じる形でサタが温室へと繋がるゲートを開き、直ぐに移動します。
そうして、私たち四人が移動を終え、ゲートが閉じられたところで……。
「ブチ切れなんすけどおおおぉぉぉっ!」
ジョハリスが吠えました。
「なんすか! なんなんすか! 何がどうなってすか、あのクソ王子はあああぁぁぁっ! 人様の命を平然と狙っておきながら悪びれず! 部下の命もどうでもいいとして扱い!! 他にも訳の分からないことをゴチャゴチャと! フナカに敢えて近づいて不意を打つつもりだったと言うのは理解するっすけど、そのためにどれだけの損害を出しているんすか!! このバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッカ!!」
そして温室中に叫びました。
私たち四人の気持ちを代弁するように。
「ジョハリス様」
「はぁはぁ……なんすか? メモクシ」
「心の底から同意させていただきます。あの方々は皇帝一族として当たり前のことをやっておられるのでしょうが、それで振り回され、使い潰される側の気持ちと言うものをまるで考えていません。それまでに更生の機会があったと言いますし、それは事実でもあり、どうしたってどうしようもない人間が居ることもメモには否定できません。が! それにしたってやり方と言うものがあるんですよ! だから私はヴィー様の下に付くことに決めたんですよ! 賭けるんなら自分の命だけベットしやがれ、あの冷血漢が!!」
続けてメモも叫びました。
メモは機械知性の中でも変わり者ではありますが、それでも叫ぶと言う辺りにストレスの溜まり具合が伺えます。
「サタ。サタも叫んでいいですよ」
「いや叫びはしないぞ。ただ……」
「ただ?」
「今回の件が片付いたら、帝星バニラシドから離れていいだろ、これ。此処までされて、滞在して協力してやる理由なんてないと思う。皇帝一族の責務だとか、貴族の義務だとか、より大きな問題を解決するためだとか……理由があれば、何をしても許されると言うのは、俺は嫌いだ」
そう言うサタの表情は正しく無表情です。
どうやらと言うべきか、当然と言うべきか、サタも相当怒っているようですね。
「今回の件どころか、今からもう離れていいと思うっすよ。ウチは」
「メモも同意……したいところですか、ヴィー様に判断は任せます」
「俺も最終判断はヴィーに任せる」
「……」
温室担当のサタがハーブティーを持ってきてくれたので、私はそれを口にして一息つきます。
「事態は解決します。フナカを放置すれば、ミゼオン博士を始め、マトモな帝国市民が数えきれないほどの犠牲になりますから」
「そうっすか」
「シンクゥビリムゾ王子については放置せざるを得ません。腹立たしいですが、あの王子の動き自体は帝国の発展と防衛に寄与していますので」
「かしこまりました」
「ですが、今回の件で私も愛想を尽かす寸前ではあります。なので、皇帝陛下が何を言おうとも、事態解決後は速やかに帝星バニラシドを後にしましょう。命を狙われたからと言えば、否とは言えないはずなので。予定も何も知った事ではありません」
「分かった」
大まかな方針についてはこれでいいでしょう。
三人とも不承不承と言う雰囲気ではありますが、頷いてくれます。
実際、相手がフナカでなければ、貰った資料に今現在帝星バニラシドの各地で大規模な事件が起きていて、それの対処に次々とリソースを吐かされていると言う状況でもなければ、放置すればミゼオン博士や帝国市民が犠牲になると言う状況で無ければ、私はもう帝星バニラシドを離れていたことでしょう。
今回のような、事態解決の為に小を贄にして大を釣り出すような振る舞いや、何も知らない人間を被害者と言う駒にして扱う事が嫌で、私は諜報部隊の囮に居たと言う面もあるのですし。
「それで? 今回の件の解決を目指すのは良いとしてだ。何処へ向かうんだ?」
「そこはバニラシドOS研究所じゃないっすか? ミゼオン博士からわざわざ情報を盗み取ったぐらいっすよ」
「加えて他の場所ならばヴィー様がわざわざ駆けつける必要はないかと。何処にも帝国軍は居ますから」
サタの言葉を受けて、私は改めてヒービィ兄様とシンクゥビリムゾ王子から渡された資料を眺めます。
そこには帝星バニラシドの何処で帝国軍が出てくる必要があるほどの事件が起きているのか、その事件がどのようなものなのかが、細かく書かれています。
ただ……。
「いいえ、バニラシドOS研究所に向かう必要はありません。そこには脅威を感じない……いえ、この言い方ではよくないですね。帝星バニラシドの何処へ向かっても、バニラシド星系全域に及んでいる脅威から逃れることは出来ません」
「「「!?」」」
私の頭の中で様々な情報が思い浮かんでいきます。
特にフナカに関係する情報が念入りに。
それから創造主だと言うチラリズム=コンプレークスの情報も知る範囲で。
両者は知り合いで、それなりに近しい距離にあるようでした。
となれば、彼らが出来る事も似通るはずで、帝国全体の仲に不和をもたらしたいとフナカが考えて、そんな大規模な衝撃を与えるとするならば……。
事象破綻による星系そのものの消滅。
そこまで考えて、私の脳裏に『異水鏡』のノイズの件も浮かびましたし、マガツキによる襲撃がまずバニラシドmod研究所に対して行われたのが何故かと思いました。
他にも大小さまざまな情報が脳裏に浮かんでは消えて……それらの情報を私の脳と目は勝手に処理していって……出て来た結論は、敵の狙いは帝星バニラシド上には無い、と言う物でした。
「敵の最大の一手は帝星バニラシドの外。惑星バニラシドP3。人類の採取活動によって、今は地殻だけになってしまった抜け殻の惑星。ここです」
そうすると不思議な事に自然と敵の位置が見えました。
なので私は断言し、向かう事にします。
「サタ。パワードスーツのサタを惑星バニラシドP3の内部へとお願いします」
「分かった。ヴィーはコクピットの方へ頼む」
「はい」
「ヴィー様、サポートいたします」
「同じくっす」
私たちはサタの本体が移動している間に、温室の中を移動しました。




