274:カレー三種乗せ
「お待たせしましたー、ごゆっくりどうぞー!」
「ありがとうございます」
待つこと暫く。
俺たちが注文した、本日のカレー三種乗せ、その他諸々がやってくる。
うーん、テーブルに置かれた時点で既にスパイシーな香りが漂っていて、食欲をそそるな。
「では、いただきます」
「いただきます」
「いただきますっす」
本日のカレー三種乗せ。
詳細としては、具が見つけられないほどによく煮込まれ黒っぽい感じになっているビーフカレー、野菜中心の材料で作られたらしいグリーンカレー、具沢山で明るい黄色のポークカレーとなっている。
付け合わせのサラダは葉野菜中心の普通の物で、飲み物はラッシーと呼ばれる飲むヨーグルトのような白い飲料。
主食は……俺は白米にしておいた。
炊かれた米は水分をよく吸っていて、ツヤツヤと輝いている。
「まずはビーフカレーを少しかけて……」
俺はスプーンでビーフカレーをすくい、白米にかけ、それから口へと運ぶ。
うん、美味しい。
様々な野菜、肉、スパイスが溶け合って、スパイシーなスープになっているビーフカレー。
それが白米に良く絡んで、噛む度に口の中で香気と刺激が舞う。
もうこの時点で俺はこの店を当たりだと太鼓判を押したい。
「次はグリーンカレー……おおっ」
続けてグリーンカレーを同様の手順で食べる。
これもまた美味しい。
美味しいが、ビーフカレーとは違う方向性の美味しさだ。
具体的に言えば、目が覚めるような刺激と言えばいいのだろうか、鮮やかで優しさを感じる緑色の見た目からは信じられないほどに刺激的で、舌と喉にピリピリと来る。
しかし、それは雑に痛いのではなく、考え抜かれ、洗練された美味しい痛みであり辛味だ。
次の一口が欲しくて堪らなくなるような辛味と言ってもいい。
「このラッシーがいい感じに口の中を癒してくれるっすねぇ」
「本当ですね。程よく甘くて酸っぱいです」
此処で俺はジョハリスとヴィリジアニラと同じようにラッシーを口にする。
なるほど、程よい甘みと酸味、乳製品の味わいがカレーの刺激を癒して、口の中の環境をリセットしてくれる。
少しばかり舌に纏わりつくような感じもあるので、人によっては好みが分かれるところもあるかもしれないが、俺としては好みだな。
なお、これは後で知った事だが、このラッシーは既製品ではなく、店主がその日に出すカレーに合わせて独自配合で作っているのだとか。
つまり、カレーによく合うのも道理であったらしい。
「さて、最後にポークカレーだな」
「ふむふむ」
「なんか落ち着くっす」
では、三種類目のカレー、ポークカレーだ。
これまでと同じように白米に少しだけかけて食べるわけだが、切られた後に煮込まれて程よく小さくなったジャガイモも一緒に口の中へと運ぶ。
味は……うん、何と言うか落ち着く。
一般家庭で、大手食品会社が出しているルーを用いたカレーよりも一段上の味なのだけれど、先ほどのグリーンカレーよりも刺激は控えめで、ほんの少しだけ甘味も感じて……うん、やっぱり落ち着くと言う言葉が妥当だな。
勿論、手抜きなんてものは一切感じない。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、豚肉と言った具材はしっかりと下処理をされた上で味が染み込むようによく煮込まれているのを感じるし、カレー自体の味もしっかりとしたものだ。
こう、表面だけ見れば自分でも追いつけそうだと思わせつつも、実態としては極めて高い技術が使われているのである。
家庭的でありながらプロの味……凄い技術だ。
「いやしかし、本当に美味しいな」
「調べたところ、バニラシドmod研究所の職員も時折、こちらへ来店されるようですね。研究に行き詰った時に、此処のカレーを食べると頭がよく回るだとか」
「あー、栄養たっぷりな感じがするっすからね。此処のカレー」
「そうですね。ただそうなると、なんだか逆に有名にし過ぎない方がいいんじゃないかとも思えてきましたね……」
「その気持ちは分かる」
ちなみにだが。
今はお昼時であり、普通の店なら満員御礼となるところなのだろうが……このお店の客入りは普通と言う感じである。
だが、普通の客入りだからこそゆっくりと食べられるし、店の雰囲気がいい事も考えると……ヴィリジアニラが宣伝する事に悩むのも分からなくはないな。
俺もこの雰囲気と味は壊したくない気持ちがあるし。
「「「ごちそうさまでした」」」
と言うわけで、ゆっくりまったりと食べていき、カレー本体を完食。
その後、デザート代わりに追加のラッシー(甘め)を飲みながら、さらにまったり。
うん、非常に満足が行く食事だったな。
後、店主に許可を貰った上で店の記事を書いたり、ヴィリジアニラに依頼した貴族と交渉をして調整をしたりもした。
きっとこれで店の雰囲気を壊すことなく、宣伝も出来る事だろう。
「む……」
「これは……」
「はぁ……」
「はいはい、察したっす」
で、このまま何事も無ければと思っていたのだが……そうもいかないようだ。
俺、ヴィリジアニラ、メモクシの目が店外へと向けられ、ジョハリスが察して溜息を吐く。
「店主様、美味しかったです。それと、これから外が少々荒れると思うので、安全が知らされるまでは店外に出ないようにするか、シェルターに素早く向かうなどの適切な対応をしてください」
「……。分かった。気をつけてな」
俺たちは会計を済ませ、店の中の人たちに外へ暫くでないように告げた上で、店外へ。
「どうやらmod研究所にトレーラーが突っ込んだみたいだな」
「サタ。先行して状況を確認して可能なら制圧を……いえ、一緒に向かった方が良さそうですね」
「まあ、mod研究所側にも戦力は十分にあるわけだしな。この状況だと俺がヴィーから離れる方が拙い」
この時、俺の本体の目に映っていたのは、バニラシドmod研究所に大型トレーラーが突っ込むと同時に、トレーラーに乗っていた武装集団が、研究所側の戦力と戦闘をしている光景。
それと並行するように、この区画の要所で怪しげな動きをする連中の姿だった。
05/06誤字訂正




