272:舞踏会の後
『帝室主催の婚活舞踏会でやらかしたA、D、Rのその後! 貴族でありながら安易に罪を犯した者の末路!!』
『ヴィリジアニラ様ご婚約! お相手はまさかの人造人間!』
『マガツキにご用心! 違法な精神操作modの危険性と出元を探る!』
これは今日出された雑誌に書かれている記事の見出しだ。
センセーショナルな煽り文になっているのは、そう言う雑誌だからなのだが、中身は割と真面目に先日の婚活舞踏会で起きた諸々について書いている。
なお、上から順に……。
温室担当の俺に薬を盛ろうとするなどの犯罪行為をした結果、ヴィリジアニラから本気の追求を喰らう事になった貴族連中について。
俺とヴィリジアニラが一緒に婚活舞踏会に現れた件と、俺がどういう人造人間についてなのか軽く触れたもの。
量産型マガツキと言うか、マガツキの粉が混ぜられた装飾品に対して注意喚起を促す記事。
である。
個人的に最重要なのは最後の記事だな。
上手く情報が集まれば、本当に出元に着けるかもしれない。
記事では記者たちの安全を考慮してか、浅く浅くで犯罪組織が関わっているのを匂わせる程度で終わらせているが。
「サタ。記事になっているっすけど、どうするんすか?」
「どうしようもないだろ。今後人前に出さないだけだ」
「そうですね。それが無難だとメモは思います。ですのでヴィー様」
「分かっています。私も今後出来る限り出さないようにします。思っていた以上に愚かな人間が多かったようなので」
なお、こちらの雑誌には『正体不明! 傾国の少女が舞踏会に!!』などと言う記事で、着飾った温室担当の俺が紹介されている。
色々と書かれているのは……見なかった事にしよう。
他にも『婚活舞踏会で出された特別なバニラアイス』とか、密会してたらしい男女の話とか、そう言うのも色々とあるけれど、これも含めて見なかった事にしよう。
「それでヴィー。帝星バニラシドでやるべき事って後何が残っているんだ?」
さて、今日は婚活舞踏会から二日ほど経ったところである。
この間、ヴィリジアニラは各所に連絡したり、交渉したりしていたが、護衛役である俺としては実に平和だった。
で、一段落が付いたらしく、バニラゲンルート子爵家のヴィリジアニラの自室で休憩をしているのが現状である。
なので、今後何をするのかを確認するために俺は尋ねた。
言うまでも無い事だが、此処で言うやるべき事とは、ヴィリジアニラでなければ出来ない事であり、誰かに任せた方がいい仕事の事ではない。
「そうですね……出来ればマガツキ粉の親機の位置を探るのに協力したいのですけど……。メモ」
「そちらはミゼオン博士による『異水鏡』の調整とノイズ除去が済めば、自然と明らかになると思われます」
ミゼオン博士が除去を試みているノイズだが、どうやら出元がチラリズム=コンプレークスのものであるものと、フナカのもので、二種類あるらしい。
そして、前者についてはどうにかしたようだが、後者についてはマガツキ粉の親機の位置を誤魔化すジャミングになっているようで、除去が必須な状況になっているらしい。
この調整に関しては、ヴィリジアニラも俺も手伝えることは無い。
「となれば、親機の位置を探られたら困る連中から妨害が来そうっすねぇ」
「来るでしょうが、それらへの対応はヴィー様がやる事ではないかと思われます」
『異水鏡』の調整は親機を持つであろうシンクゥビリムゾ王子一派としては阻止したい案件だろう。
だから、ジョハリスの言う通り、妨害は来るに違いない。
だがそれはメモクシの言う通り、ヴィリジアニラの仕事ではない。
いやまあ、ヴィリジアニラのいつものを考えたら、出向いたところでトラブルが起きて、そこから事件解決まで一気にとかありそうだけど、それは……どうなんだと思う解決の仕方なので、俺としては勧められないな。
「そうですよね。となると……空いている時間に行うので適当なものだと、帝星バニラシドの一部区画にある料理店にサタと一緒に出向いてレビューを行うだとか、何処かの企業の工場に視察へ赴くだとか……ああ、今後の為にサタの転移先を確保しておくと言うのもありますね」
「タイミングが固定されているものだと?」
「バニラシド帝国大学で講演を行うと言うものがありますね。卒業後から帰ってくるまでの間に何があったのかを、法や機密に触れない程度で話してほしいそうです」
「なるほど」
で、こちらがヴィリジアニラでないと出来ない仕事だな。
料理店のレビューはたぶんだが、その区画を担当している貴族に頼まれた案件なのだろうし、企業の工場の視察は諜報部隊としての普通の仕事だ。
俺の転移先確保の話は……そう言えば、そんなのもあったな感がある。
大学での講演など、ヴィリジアニラの経験そのものを求められているので、他の誰にも代われない話だろう。
「後はそうですね……」
「ところでヴィー様。皇帝陛下から、お茶会の誘いが再び来ていますが。しかも温室担当のサタ様を連れてくるようにとの事です」
「仕事が忙しいという事で断っておいてください。後、皇后殿下への告げ口も」
「かしこまりました」
……。
うんまあ、皇帝陛下への塩対応についてはいつも通りだし、気にしないでおこう。
これは最近分かってきたことだが、ヴィリジアニラの皇位継承順位や皇帝陛下のお気に入り具合を考えると、迂闊に会えばそれだけで余計な勘繰りをしてくる連中がいるらしく、そう言う連中とのトラブルを避けるためにも、断るのが一番都合がいいらしいので。
そこでただ断るだけでなく、皇后殿下への告げ口も入る辺りに、ヴィリジアニラの対応が塩と呼ばれるわけだが。
「大学での講演が終わったら、別の星系に向かうのもありか? 出来る事が無いし」
「皇帝陛下の待機命令が無ければ、それも考えておいていいかもしれませんね」
さて、状況が動くのは何時だろうか?




