268:魔払いのソース
「……。状況が動きますね」
「「「……」」」
ヴィリジアニラが呟く。
それと同時に俺はさりげなくヴィリジアニラの一歩後ろから一歩前へ、メモクシはヴィリジアニラの背後へ、ジョハリスは機体の中に隠してある機器で熱源の探査などを始める。
と同時に……。
「ぐっ……!?」
「「「!?」」」
参加者の男性が一人、突然に喉と腹を抑え、膝を着き、うめき声を上げて苦しみ始める。
「なるほど。トウゴットォ・シメウナンクンでしたか」
「あー……」
突然発生した異常事態に、直ぐに複数人の係員が出て来て、男性……トウゴットォを介抱しようとする。
うん、これは当然の動きなので、気にしなくていいだろう。
それよりも気にするべきは、何故トウゴットォが倒れたかと、どうしてヴィリジアニラが反応しているかだ。
前者の原因次第ではこっちも避難する必要があるし、後者の理由次第では此処から何が来るかを警戒する必要があるので、確かめないといけない。
なので、少し目を凝らしてみるが……どうやら、トウゴットォが食べたのは、ザクロックさんが調理した料理であるらしい。
それはつまり、ヘーキョモーリュが含まれるソースを口にしたという事なので……。
「マガツキか」
「その通りです。サタ、対処をお願いします」
「分かった」
トウゴットォが苦しみながらも暴れ出し、係員の人たちもどうしたものかと困惑している。
無理やり抑え込む事を躊躇っているのは、トウゴットォの腹の方にやっている手にいつの間にか短剣のようなもの……マガツキが握られているからだろう。
なるほど納得した。
トウゴットォはマガツキの洗脳下にあった。
マガツキの洗脳は独自OSに基づくmodによって脳内の電気信号などを操る事によって行われる。
今ここに居るマガツキの洗脳は『異水鏡』を使っても反応を検知する事が難しい代わりに、出力が低く、後遺症が低いものだったはず。
それはつまり、modの強度が低いという事なので……『バニラOS』以外のOSに基づくmodを溶かすヘーキョモーリュの毒をもろに喰らったのだろう。
そして今に至る、と。
「よっと」
「ーーーーー~~~~~!?」
まあ、ただ暴れているだけなので、抑え込むのは簡単だ。
と言うわけで、俺は普通にトウゴットォの体を抑え込むと、手に持っていたマガツキへとmod無効化の墨を吹きかけて、トウゴットォにかけられていた身体制御modによる洗脳を解除する。
それだけで、トウゴットォは動きを止め、全身を脱力させ、落ち着く。
さて、此処からはヴィリジアニラの仕事だな。
「皆様ご安心ください。事情を説明いたします」
ヴィリジアニラが今何が起きたのかを説明していく。
マガツキと言う、普通の人間ならば手に取るだけで洗脳されてしまう、短剣型宇宙怪獣の存在。
ソースに含まれていたヘーキョモーリュの効能。
洗脳された人間がどのような行動を取るかの説明と、トウゴットォには恐らく責任が存在しない事。
俺が宇宙怪獣である事に、modの無効化手段を有している事。
全てを明らかにしたわけではないが、共通して知っておくべき事を伝えて、場を落ち着かせていく。
「サタ。マガツキの破壊または無力化は可能ですか?」
「やってみるが、証拠としては使えなくなるかもだ」
「構いません」
「分かった」
俺はトウゴットォの手からマガツキを離すと、シブラスミス星系でも使った対マガツキ用の毒modを含んだ墨を吹きかける。
「ーーーーーーーーー!?」
「っ……」
マガツキが断末魔の叫びを上げた。
正確にはそう錯覚するような、金属と金属がぶつかり合って割れるような音がダンスホール中に響く。
で、音が止んでから俺は軽く触り、マガツキのOSの状態を確認。
うん、事象破綻は起こしていないが、致命的な破綻を発生させて、機能を停止させることに成功したな。
シブラスミス星系のマガツキとはまた微妙に異なるOSのようだし、ここから読み取れるものもあるだろうが……そう言うのはOSを専門的に取り扱っている研究所がやるべき仕事だろう。
「大丈夫そうですか?」
「ああ、大丈夫そうだ。後は誰が何処へ運ぶかだが……」
俺は適当な布を貰ってマガツキを包む。
そして、渡す先を探して周囲を見るわけだが……。
「お待たせいたしました。帝国軍諜報部隊のものです」
「ヴィー?」
「渡してください」
ここで騒ぎを聞きつけたらしい帝国軍諜報部隊の人たちが複数人でやってきた。
ヴィリジアニラにも確認したが、渡しても問題ないらしい。
なので、何か妙なデザインの首輪を身に着けている人へと、包んでいる布ごとマガツキを渡す。
「皆様、脅威はこれにて去りましたので、安心して舞踏会を続けてください」
「「「ーーーーー!」」」
とりあえずこれで事態の収拾はついたらしい。
うん、あっさり終わったな。
あっさり終わったが……。
「サタ、私たちも裏へと一度行きましょうか。事情聴取を受ける必要があります」
「あ、はい」
うんまあ、聴取は必要だよな、そりゃあ。
そんなわけで、トウゴットォは係員によって担架で運び出され、俺たちは事情聴取の為に裏へと移動。
そして、詳しい事情は分からないが、トウゴットォの知り合いだからだろうか、俺たちを追いかけるようにハルワァトーテさん、タルコットンさん、キュキラストさんも俺たちについてくるように裏へと移動してくる。
さて、どんな話が出てくるのだろうか?




