265:挨拶に来る人も色々
「ヴィリジアニラ様、サタ様。ご婚約おめでとうございます。本日の舞踏会では当家からも幾つかの品を提供させていただいていますので、もしよろしければ後でご賞味くださいませ」
「ありがとうございます、トーテ。後で楽しませていただきますね」
今訪ねて来たトーテさん……ハルワァトーテ・シメアケハコ男爵令嬢は俺にもヴィリジアニラにも好意的な視線を向けて来たし、口調も柔らかった。
ヴィリジアニラの口調と表情からしても、仲がいい相手なのかもしれないな。
今回の婚活舞踏会で供されている料理の幾つかがシメアケハコ男爵家から出ているとの事なので、後で機会があれば楽しませてもらおう。
さて、そんなハルワァトーテさんのように、俺にもヴィリジアニラにも好意的な視線を向ける人はそれなりに居る。
この人たちは本心から祝福をしている善良な人か、俺には見抜けないほどに厳重に仮面を被っている人だな。
どちらにせよ、付き合いを持っておくべき人なのだろう。
付き合うだけで不快にさせられるような人間ではないのだし。
「ヴィリジアニラ様。ご機嫌麗しゅうございます。本日もまたお美しいですね」
「ふふっ、お褒めの言葉ありがとうございます」
「……。貴方がサタ様ですか。……。御機嫌よう」
「初めまして」
次に訪ねてきたのは……えーと、キュキラスト・シメウナーコ男爵子息と言うらしい。
こちらはヴィリジアニラには好意的な視線を向けているが、俺に対しては敵意たっぷりな視線を向けている。
こう言うタイプは、たぶんだがヴィリジアニラに好意を寄せていたとか、それなりに付き合いがあったとかなんだろう。
だから男性なら俺に対して敵意を向けてくるのは分かるし、女性でも俺を見定めるように疑念の目を向けてくる。
うん、目の前のキュキラストさんのように、明るい敵意や疑念なら、それを払拭できるような働きを見せれば味方になってくれそうだし、問題はないだろう。
問題はなんかドロドロっとした疑念や敵意を向けてくる一部の連中で……こっちは注意が必要かなと思う。
「ヴィリジアニラ様、サタ様。お初お目にかかります。私はシメウカース男爵家のタルコットンと申します」
「初めまして、タルコットン令嬢。良いお相手が見つかる事を願っていますね」
「ふふふ、ありがとうございます。ところでサタ様は……」
「タルコットン令嬢。その話は此処でする事ではありませんよ」
「あら、申し訳ありません。では、また機会があればその時にでも……」
続けてやってきたのはタルコットン・シメウカース男爵令嬢。
今更だが、ハルワァトーテさんから同じような苗字が続いているのは、同じ区画に住んでいる男爵家同士であるためらしい。
で、タルコットンさんは、ヴィリジアニラにはライバル心のような敵意を向けていたが、俺に対しては好意的と言うか興味を持っていますと言う感じの視線を向けていた。
ヴィリジアニラの態度からしていつも通りでもあるようだが。
そして、こう言うタイプは……俺にはよく分からない場合がある。
俺に対して好意的な視線を向けるのは、きっと俺の正体が宇宙怪獣である事を知っていて、俺から得られる各種利益に興味が向いているからだと思うのだが……そこでヴィリジアニラに協力するのではなく、敵対する理由が、よく分からない。
タルコットンさんのような、負の念を感じない形なら、敵うかどうかは別としてライバル視の類だと思えるのだが、ねっとり系の敵意を向けている連中が本当によく分からない。
危険な事だけは確実なので、注意はしておこう。
「ヴィリジアニラ様、サタ様、ご婚約おめでとうございます。では」
「……。今のは?」
「トウゴットォ・シメウナンクン男爵子息です。サタ様」
「なるほど」
トウゴットォさんはぶっきらぼうな挨拶をすると、直ぐに去って行ってしまった。
俺に対してもヴィリジアニラに対しても敵意むき出しで、おまけにそれを隠す気が一切ない。
ついでに言えば、何かを狙っているような感じでもあったな。
うんまあ、こう言うタイプは……言っては何だが、基本的に小物だと思う。
もしかしなくても少し前の、俺が単独行動をしている時に仕掛けて来て、制圧された連中と同じように捨て駒にされそうな感じがある。
まあ、ヴィリジアニラに敵対する派閥の人間とか、昔不利益を被った人間とかで、ヴィリジアニラに対して怨みを抱いていて、だから俺に対しても怨みを抱いているとか、そんなところなのだろう。
このタイプにはヘドロみたいな感じの敵意を発している人間も多いし、ヴィリジアニラも注意を払っているように見えるので……警戒対象だな。
「しかし、敵も味方も沢山だ」
「そうですね。でも貴族社会とはそう言うものです。何百年も続いたせいでどこもかしこも人間関係が複雑怪奇な事になっていて、誰が敵で誰が味方なのか、把握しきれている人間はそう多くないでしょう」
「なるほど分からんし、関わりたくない」
「そうでしょうね。私も出来るだけ関わりたくないです」
ヴィリジアニラもうんざりとした表情で答える。
なんにせよ概ね四タイプだ。
俺とヴィリジアニラにどう敵意を向けるかで、おおよそは分けられる。
そして、その敵意が陰湿な物なら、より注意するべき対象。
俺はヴィリジアニラの護衛として、危害を加えようとする人間に注意しよう。




