263:婚活専用区画
「此処がムンガッセンオ子爵が管理している婚活専用区画か」
俺とヴィリジアニラが出る、皇室主催の婚活舞踏会がもうじき始まるという事で、俺たちは会場があるムンガッセンオ子爵が管理運営する婚活専用区画へとやってきた。
区画へ入るに当たっては成人資格証を利用したチェックが一人ずつ行われ、その警備の厳重さが窺える。
そうして入った区画の中には、舞踏会の会場になるであろう宮殿のような建物が幾つも立ち並ぶだけでなく、天井まで届く大型のホテルなどの宿泊施設、乗馬体験が出来る牧場、雰囲気のいいカフェに茶室と言った設備が揃っている。
全体的に道路も壁も綺麗に掃除されていて、何と言うか空気が大人しくも華やかな感じであり、騒がしい気配があるのは本当に一部だけだ。
「なんと言うか、落ち着いた雰囲気っすね。もっとガツガツしているのかと思ったっす」
「婚活専用区画は管理者である貴族によって特色も雰囲気も別物になります。なので、ジョハリス様が仰るような区画も場所によっては存在します」
「へー、そうなんすか」
なおメモクシ曰く。
婚活専用区画は帝星バニラシドの各地にあるのだが、近くの同様の区画とコンセプトや方向性が被らないように、それぞれの区画の管理者が協議をしつつ運営をしているそうだ。
だから、ムンガッセンオ子爵の区画では舞踏会をメインとして、上流階級同士の婚姻と社交がしやすいようになっているし……。
全員の衣装を統一した上で仮面をつけ、外見以外で出会いを決めるようにした区画。
見た目は殆ど他の区画と変わらないが、婚約を求めている人間はその証を首から提げる事で婚約を促す区画。
売り込む側と買う側に分かれて、ある種のオークションショーのような形式で婚姻活動が進む区画。
機械知性協力の下、相性が良さそうな男女を見繕ってお見合いさせる区画。
それと、メモクシは言わなかったが、俺の本体の方で見かけてしまった、常夏の空間でほぼ裸な恰好がデフォルトであり、婚約から一歩先に進んでしまっているような区画も……まあある。
流石に空気がアレ過ぎて、直ぐに退散したが。
とまあとにかく、そんな感じで、帝星バニラシドの婚活専用区画は実に様々な形で存在している。
なお、どの区画にも共通する事柄としては、出入りは厳重に管理されている点が挙げられる。
これは様々な不埒者を入れないために必要な処置なので、当然の事だろう。
「見えてきましたね。アレが今夜の会場です」
「えーと、確か……一度ホテルの方へと寄って、ホテルで準備を整える。それから、雰囲気づくりの為に馬車に乗り換えて向かう、だったか?」
「その通りです」
と、俺たちが乗った車が、とても大きな白亜の宮殿の前を通り過ぎる。
庭も広ければ、ダンスホールも広いし、個室も幾つも存在していて、裏では多くの人たちが忙しなく働いているのが本体視点では見えている。
きちんと探していないので見つけられなかったが、今頃はザクロックさんもあの集団の中に入って、準備を進めているはずだ。
「しかし準備か……本当に温室担当の俺も出すのか?」
「出します。折角の機会は生かすべきなので」
ホテルに到着。
殆どの準備は事前に終わらせてあるので、この場でやるのは事前に決めた通りに着替えるのと化粧を施すぐらいだ。
そして、俺については着替えるだけで済むので、直ぐに終わる。
メモクシとジョハリスについても、今回は参加者ではないため、ちょっと整えるだけで済む。
温室担当の俺も……まあ、いつでも出せる。
出す必要があるのかは、今でもなお悩んでいるのが俺の本音だが。
なんにせよ、時間がかかるのはヴィリジアニラだけだ。
「準備が整いました」
「分かった」
ヴィリジアニラが姿を見せる。
なんとなくだが……普段よりも落ち着いた感じの衣装と化粧にしてあるな。
人目を惹きつけ過ぎないようにしていると言う感じだ。
なお、ドレスやアクセサリそのものはこれまでに見た事が無いものなので、新品のようだ。
なんでも皇帝陛下が贈って来たらしい。
「?」
「今日の婚活舞踏会、私とサタは参加者ではありますが、新しい相手を求めての参加ではありませんからね。人目を惹きつけ過ぎるのは、他の参加者に対して悪いです」
「なるほど。でもそれなら温室担当の俺も幾らか抑えた方が良かった……」
「いいえ、温室担当のサタはそのままでお願いします」
「うーん……まあ、いいけども」
今日のヴィリジアニラが控えめな理由は分かった。
しかし、それだと温室担当の俺は……いやまあ、囮役だってのは分かっているのだけども。
危険因子の炙り出しをするとか言っていたはずだが……うーん。
まあ、何かは起きると思って行動するか。
でなければ、温室担当の俺なんて準備させないだろうし。
「さあ、向かいましょうか」
「分かった」
「かしこまりました」
「了解っす」
さて、ヴィリジアニラが準備を整えている間に、時間も良い頃合いになった。
と言うわけで、俺たちは馬車へと乗り込んでいく。
うん、本物の馬に引かせ、独特の音を響かせながら進むその姿は、皇室に連なる者だからこそだな。
そして、先ほど通った時とは違って、カメラなどを構えている人物で溢れ返っている会場の前に馬車は到着。
馬車の扉が開かれる。
さあ、婚活舞踏会の始まりだ。
ムンガッセンオ=月合仙翁
封神演義に出てくる結婚に関わる仙人的なものですね。




