260:おかしな襲撃 ※
本話はヴィー視点となっております。
ご注意ください。
「到着だ」
「ありがとうございます」
周囲を海に囲われているエレベーターへと到着したパワードスーツのサタはゲートを展開し、私たちは温室から外へと出ます。
周囲に脅威は感じません。
エレベーターについても同様です。
「ヴィリジアニラ様。どうぞこちらへ」
「分かりました。サタ、メモ、ジョハリス、行きましょう」
「分かった」
「かしこまりました」
「分かったっす」
エレベーターの中に入ると共に、私の情報端末に向けて、帝星バニラシドの各地からメッセージが送られておきます。
これらのメッセージはメモクシにも送られているようなので、私は目でメモクシにメッセージの内容を話すように促します。
「どうやらザクロック様たちは無事にイセイミーツ子爵邸に着いたようです。護衛及び周囲の機械知性によれば、道中でのトラブルは兆候すら存在しなかったようです」
「なるほど、一安心すね」
「だな」
ザクロックさんたちは無事。
また、バニラエッセンスの作成についても直ぐに取り掛かるようです。
イセイミーツ子爵邸及びミゼオン博士の周囲にも異常はないとの事なので、問題はないでしょう。
しかし……。
「ザクロックさんたちが無事なのは喜ばしいとして、妙な事になっていますね」
「そうですね。ヴィー様の言う通り、妙な事になっています」
「妙な事? ああ、追撃が無かった点とかか」
「確かにおかしくはあるっすよねぇ。ザクロックさんたちが襲われていない事に、最初の狙撃の狙いからして、狙われていたのがヴィー様っすよね。でも、ヴィー様を狙いに来ているにしては……手緩いっすよね? 色々と」
だからこそ私たちはおかしな事になっていると首を傾げます。
対して、私たちとの付き合いが浅い帝国軍の方々は、私たちの発言に僅かにですが動揺しているようです。
「ええ、その通りです。わざわざ帝星バニラシドのアンダー層などと言う、武器を密かに持ち込むのにも苦労する場所で仕掛けてきたにしては、あまりにも相手の攻撃がぬるい」
なので、私は帝国軍の方々に聞かせるようにおかしな点を挙げていきます。
まず後詰や仕掛けが足りていない点。
本気で私を殺しに来るのなら、襲撃はもう何度か来るべきですし、移動に用いた車両や採取に赴いたエリアに爆薬を仕掛けるぐらいは、して当然の事でしょう。
軍用グレード8の狙撃用ブラスターmodを過信していた程度では、少々説明がつかないぬるさです。
次に襲撃場所がおかしい点。
そもそもの話として、私を襲撃するならば帝星バニラシドのアンダー層などと言う場所よりも、はるかに適した箇所がミドル層に幾つも存在します。
私たちの油断を誘うにしても、これはおかしな話です。
もっと言えば、私たちだけを狙っているのがおかしい。
帝星バニラシドのアンダー層で仕掛けるような人間なら、私が皇帝陛下の庶子である情報くらいは得ていて当然と言うか、知らない方が無理があるでしょう。
そして、私に仕掛けるなら、私に味方する人たちも敵に回すのは当然の話であり、少しでも自分たちにとって有利に事を運ぼうと思うのなら、その味方する人たちを浚うなどして利用する事も考えて当然でしょう。
なので、バニラゲンルート子爵家やイセイミーツ子爵家そのものへの攻撃はまだしも、ザクロックさんやミゼオン博士への攻撃がないと言うのはおかしい。
こうなってくると、やはりマガツキが関わっていると考えてもいいでしょう。
マガツキに責任者を洗脳させて仕掛けてくると言うやり方なら、ぬるい攻撃であっても使い道がありますので。
「なので……そうですね。襲撃が失敗する前提でもっと大きな計画がされていて、私たちへの攻撃が行われたと言う事実こそが、相手にとって重要であったと考える方が妥当そうですね」
「なるほど。しかし、ヴィーに攻撃をして失敗する前提の計画とか、そんなものを組める時点で、相手の正体はかなり狭まるんじゃないか?」
サタはそう言いつつも、察したような目をしています。
メモとジョハリスも同様です。
たぶんですが、私たち四人の脳裏には、シンクゥビリムゾ王子と言う名前が同じく浮かんでいる事でしょう。
証拠はないので、口にはしませんが。
「ヴィー様。速報が入りました。シンクゥビリムゾ王子がシセンブレイン子爵が管理する区画へと査察を行い、重大な違法行為があったとして、シセンブレイン子爵を拘束したとの事です」
「シセンブレイン子爵?」
「誰っすか? ヴィー様の知り合いっすか?」
「いいえ、会ったこともありません。ただこのタイミング、シセンブレイン子爵と今回の件に関わりはありそうですが……冤罪か、足切りか、粛清か……情報がないので、判断が付きませんね」
シセンブレイン子爵は帝星バニラシドにあるミドル層の一つを管理運営している方だったはず。
少々金にうるさいと言う噂があったのと、管理している区画は辛さを売りにした食材や料理を扱っていた事と、多少後ろ暗い噂があった事と……位置的にはアンダー層に繋がるエレベーターの一つにも近かったはずですね。
とにかく、私とは縁がない人物です。
政治的な立ち位置を見ても、ほぼ中立……いえ、若干ですがヒービィ兄様に寄っていたぐらいでしょうか。
なんにせよ、情報不足で、シンクゥビリムゾ王子が拘束をした理由の判断が付きませんね。
こちらへ攻撃を仕掛けて来たのについては、マガツキに操られていた、と言うので終わらせることも出来るのですけど。
「うーん、自作自演?」
「それを考えてもいいくらいですね。場合によっては複数人の策謀が関わっている可能性も否定できませんし……続報を待つしかありませんね」
とりあえずエレベーターが上がっている間に、皇帝陛下たちへと襲撃に関する報告のメッセージを送っておきましょう。
……。
皇帝陛下からは複数のメッセージが来ていますが、返すのは一本かつ一言だけでいいですね。
きちんとした報告は皇后殿下と母様に送れば十分でしょう。
私はメッセージを送りました。




